アンの青春
完全版

1998/07/02 松竹第1試写室
『赤毛のアン・完全版』に次ぐ、人気シリーズの続編作品。
前作を観ていなくても、しっかり感動できます。by K. Hattori


 今から8年前に公開された『アンの青春』に、未公開のエピソードを加えた完全版。ルーシー・モード・モンゴメリの「赤毛のアン」シリーズは、1908年の発表以来、世界中で愛されているベストセラー。この映画は、カナダのテレビ用に製作されたもので、第1作の『赤毛のアン』が'86年に製作され、続編である『アンの青春』は'88年の製作。カナダでは、現在シリーズの第3作目を撮影中だと言います。主人公アンを演じるミーガン・フォローズ他、出演者たちはシリーズを通して共通。物語の中で時間が経てば、それにあわせて俳優たちも年をとる。これはカナダにおける「大草原の小さな家」か、「北の国から」のような作品なのかもしれません。

 前作『赤毛のアン』の日本公開は9年前の夏、『赤毛のアン・完全版』は4年前に公開されています。僕はあいにく両方とも観ていないのですが、今回『アンの青春・完全版』を観て、機会があれば『赤毛のアン』も観てみたいと思いました。テレビ映画ということで16ミリ撮影らしく、画面の粒子がやや荒れているのが残念ですが、映画の中に登場する風景が素晴らしく、画面に引き込まれそうになります。それ以上に心を引かれるのは、主人公アンを始め、登場人物のキャラクターがじつに巧みに描かれているからでしょう。根っからの悪人は登場しない物語ですが、人物それぞれの生い立ちや性格の描写は絶妙で、人物同士の葛藤もスリル満点。こういう映画を観ていると、善人対悪人の対立を描くアクション映画が、なんとも単純で子供っぽいものに思えてしまう。

 上映時間が3時間40分の大長編ですが、魅力的なエピソードは満載、物語は山あり谷ありで、観ていて飽きることがありません。映画館のイスさえちゃんとしていれば、疲れることなく最後まであっと言う間に観通してしまうことでしょう。今回はアンの結婚までが描かれますが、それがなかなか一筋縄では行かないんです。所々で観ていてイライラとじれったく感じることもありましたが、それは映画の出来が悪いからではなく、登場人物の気持ちがわかるだけに、かえってじれったいのです。

 ギルバートの求婚を断るアンが、本当は彼の事を愛していることに、周囲の皆が気付いているし、その時の彼女の表情を見ている観客も気付いている。でもアン本人は自分の気持ちに気付かないまま、ずいぶんと遠い回り道をしてしまうのです。これは映画だからハッピーエンドで終わりますが、同じような気持ちのすれ違いから別れてしまうカップルは、すごく多いと思うぞ。久しぶりにギルバートと再会したアンが、彼の婚約を知ってショックを受ける場面には胸が痛みました。同時に、ギルバートが改めてアンの姿を見て、自分が気持ちを偽っていたことを悟る場面も……。この短い別れの場面は、映画の中でも最高のラブシーン。これがあるから、最後に再会した時の会話も嘘にならない。

 とてもいい作品だと思うので、時間があれば観ても損しない映画だと思います。前作は観てなくても平気です。

(原題:Anne of Green Gables:The Sequel)


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