「つげ義春ワールド」
退屈な部屋・懐かしいひと・無能の人

1998/07/01 電通ハイビジョンシアター
豊川悦司と望月六郎が、つげ義春の原作をテレビドラマ化。
監督同士を比べると、やはり望月が一枚上。by K. Hattori


 7月18日から公開の石井輝男監督作品『ねじ式』に合わせたわけではないでしょうが、テレビ東京で7月から9月まで、つげ義春原作のテレビドラマが12回に渡って放送されます。今回はそのお披露目とも言うべき試写に出かけてきました。上映されたのは、豊川悦司が初監督に挑んだ「退屈な部屋」「懐かしいひと」と、望月六郎監督の「無能の人(前・後)」です。番組はそれ以降も、「別離(前後編)」「散歩の日々」「ある無名作家」「義男の青春(前・後)」「やもり」「紅い花」と続いて行くそうです。「無能の人」は竹中直人監督が映画化していますし、「別離」と「紅い花」は石井輝男監督の映画にも含まれているエピソードなので、これらと比較してみるのも面白いかもしれません。

 試写をした会場の映写設備が悪かったのかもしれませんが、豊川悦司監督の「退屈な部屋」と「懐かしいひと」は画面がボケボケで、役者の表情がほとんど見えないものでした。主人公の漫画家を映画監督の橋口亮輔が演じ、その妻を鈴木砂羽が演じているのですが、この絵では誰が誰だかよくわからない。僕は服装などを見て判断してました。画面サイズはビスタになっていましたが、これはテレビ放送時にも上下に黒マスクを入れて放送するんだろうか。(ああ、こういうことをすかさずスタッフに聞いとくぐらいの機転が利かないようじゃ、僕も映画批評家としてまだまだ甘ちゃんです。)

 豊川悦司はこれが「初演出作品」だそうですが、独特の雰囲気を持った原作と精一杯格闘している様子は伝わってきます。結果を見ると、その戦いには敗れたと思えますが。主人公のモノローグを多用したり、カメラを固定して少し長めのカットを使ったり、画面にフィルターをかけて異様な色彩効果を狙ったりしています。でもこれが、どうもチグハグなんだよね。もっとストレートに役者を前面に出して撮った方が、逆につげ作品の雰囲気は出たような気がするんだけど……。

 望月六郎監督の「無能の人」は、以前に竹中直人が映画化したのと同じ原作を思い切って脚色し、まったく別の世界を作り上げています。ストーリーは確かに「無能の人」なんだけど、作品のテイストは「つげ義春ワールド」から離れていると思う。でも、つげ作品を演出するには、このぐらいの思い切りが必要なんだと思う。竹中監督の『無能の人』は映画なりの尺を使って、原作の空気をうまく再現していましたが、望月監督の「無能の人」は、正味40数分という時間の中で、原作のエッセンスだけをうまく描いていたと思う。

 原作には登場しないバイク旅行のカップルを狂言回しに登場させ、石売りの助川助三と、バイクの若者テツの「無能の人」ぶりを対比させて行く構成。助川の妻役に水木薫を配役することで、この作品は石井監督版の『ゲンセンカン主人』や『ねじ式』と連結し、助川家がまぎれもない「つげ義春ワールド」になっているのが面白い。映画的な「粘り」はないですが、手慣れた演出です。


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