グランド・コントロール
乱気流

1998/06/24 GAGA試写室
飛行場の裏方・航空管制官の姿を描く、サスペンス映画の秀作。
本作と『乱気流/タービュランス』は無関係です。by K. Hattori


 タイトルは昨年公開された『乱気流/タービュランス』の続編みたいですが、それとは全然関係のない別の映画です。最初は『乱気流2』というタイトルにしようとしたらしいのですが、アメリカで本物の続編映画が進行中とのニュースを聞き、あわてて『2』の文字をはずしたとか……。でも、ローレン・ホリーとレイ・リオッタ主演の『乱気流/タービュランス』より、キーファー・サザーランドやケリー・マクギリスが出演しているこの映画の方が、映画の格は遥かに上です。原題を直訳すれば「航空管制官」になる。華やかな航空業界の裏方として働く管制官たちの姿を描く、濃厚な人間ドラマです。もとが舞台劇だったのではないかと思わせるような緻密なサスペンスドラマで、ぜんぜん期待せずに観ただけに、これは意外な収穫でした。欠点は地味だってことです。配給会社も、売り方には苦労しそうですね。

 自分が担当していた航路で旅客機が墜落し、そのショックから管制官の職を退いていたハリスが主人公。事故は彼の責任ではないのだが、目の前のスクリーンから突然百数十人が乗った飛行機が姿を消した経験が、彼を臆病にさせている。しかし5年後、アリゾナ州フェニックスの空港に勤務していた彼の元同僚が、彼に助けを求めてくる。年末年始の増便で管制官が足りない上、嵐が接近して空港周辺は大混乱、しかも点数稼ぎを画策する管理職が、臨時に50便もの受け持ちを増やしてしまったという。ハリスは気乗りしないまま管制室に足を踏み入れたものの、あたりの喧燥に後押しされて即座に勘を取り戻し、飛行機に指示を出しはじめる……。

 この映画のモチーフは主として3つ。第1は、心に傷を持った元管制官が過去を克服する物語。第2は、大混乱の管制業務を、無事故で乗り切れるかというサスペンス。第3が、ハリスという異分子を抱え込んだ管制官たちのチームワークです。この3つが束になって大きなドラマを作って行く様子は、まるで脚本作りの教科書のようでした。管制官たちだけでなく、彼らの行動を監視する監督官の姿や、次々と起こるトラブルに対処するメカニックなど、裏方である管制官たちより、さらに裏方に位置する人々を登場させたのも面白い。これによって、物語にぐっと厚味が出てきます。

 管制官たちを次々と襲う危機また危機の連続に、観ているこちらはハラハラドキドキしっぱなし。わずか1時間37分の映画ですが、2時間半の映画を観ているような充実感があります。いつ大事故が起きるのか、あるいは起きないのかというスリルとサスペンス。結果として大きな事故は起きないのですが、「何も起きない」ということの裏側で、どれだけ多くの人々の血のにじむような努力が払われていることか。彼らは誰にも知られることなく、とてつもなく大きなことを成し遂げた。そんなドラマに、僕は感激して最後はちょっと泣いてしまいました。小さな劇場で2週間だけの上映ですが、観られる人は観ても損のない映画だと思います。強力推薦。
(原題:GROUND CONTROL)


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