パパラッチ

1998/06/13 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
スキャンダル専門のフリーカメラマン、パパラッチの生態。
テンポはスパイ・サスペンス映画です。by K. Hattori


 有名人の私生活を盗撮し、雑誌やタブロイド新聞に売り歩くフリーのカメラマン「パパラッチ」の存在は、ダイアナ妃の事件を通して世界的に有名になりました。この映画は、そんなパパラッチたちの日常と、職業哲学や倫理、行動と哲学の矛盾、人間性との葛藤を描いています。ちなみに日本のカメラマンは、ほとんどがどこかの媒体に所属するか、媒体との請け負い仕事で生活しているため、日本人にパパラッチはあまり身近な存在ではありません。日本でもっともパパラッチ的なのは、プロのカメラマンより、むしろアイドルタレントの追っ掛けをしているカメラ小僧たちかもしれません。

 映画のオープニングは、狙った獲物を逃がさないパパラッチのプロフェッショナルぶりを描きます。ヴァンサン・ランドン扮するパパラッチのミシェルは、工事現場にカメラを持って潜り込み、超望遠レンズで男女の密会現場を撮影しようとする。これはカメラマンというより、緻密に暗殺計画を実行するゴルゴ13に似ています。この凄腕パパラッチが映画のひとりめの主人公です。

 この映画のもうひとりの主人公、パトリック・ティムシット扮するフランクは、仕事をさぼってサッカー観戦に出掛けていたところを、たまたま後の席に座っていた被写体といっしぃにパパラッチに盗撮され、仕事をくびになってしまう。雑誌社に抗議にいってもカメラマンの名を教えてくれないし、この手の抗議に慣れている会社は蚊に刺されたほどの痛痒も感じていない。失業中のフランクはミシェルのアシスタント(パパラッチ業界では「奴隷」と言われている)として彼について回り、少しずつパパラッチの世界に足を踏み入れて行く。

 映画の観客にとって、パパラッチ業界の内幕は新鮮なものばかり。フランクはその世界の案内人です。観客の知らない世界を描くとき、観客と同じ立場の人間を案内役に立てるという原則が、ここでも守られています。偽名を使って電話をかけ、管理人を買収してごみ箱をあさり、協力者を裏切り、敵の味方につき、味方を出し抜き、何としても特ダネに食い付こうとするパパラッチの習性。こうして有名人のプライバシーを食物にしている姿に、フランクは時に疑問も感じますが、やがて彼も一人前のパパラッチへと姿を変えて行くのです。この映画には、芸能人とパパラッチの「持ちつ持たれつ」という関係も描かれています。その辺もじつにリアルでした。

 フランクが身も心もパパラッチに成り切って行くのに対し、ミシェルは少しずつ自分の仕事を嫌悪するようになる。フランクの動機はともかくとして、ミシェルの転向動機が僕には少し弱いように感じられました。ここに説得力があると、映画はもっと力強くなったと思います。

 報道とエンターテインメントの関係については、アメリカでも『マッド・シティ』や『ウワサの真相』などの映画が作られてます。かつては「正義の味方」だったマスコミを見る目が変化している証拠です。今後はひとつのジャンルとして定着してくるかもしれません。

(原題:PAPARAZZI)


ホームページ
ホームページへ