ジャンヌと素敵な男の子
(原題)

1998/06/13 パシフィコ横浜
(第6回フランス映画祭横浜'98)
ヴィルジニー・ルドワイヤン主演のエイズをテーマとしたミュージカル。
テーマが真面目すぎて気楽には笑えない。by K. Hattori


 『シングル・ガール』のヴィルジニー・ルドワイヤン主演のミュージカル。共演はフレンチ・ミュージカルの巨匠ジャック・ドゥミの息子でもあるマチュー・ドゥミ。オリヴィエ・デュカステルとジャック・マルティノーの共同監督で、ふたりはこれがデビュー作だそうです。体裁としてはミュージカル・コメディなのですが、エイズというシリアスなテーマを持つ作品なので、笑いの部分はもうひとつはじけない。主人公ジャンヌが恋愛に対して放縦に見えることもあって、僕は彼女にあまり感情移入ができませんでした。フランスでは大ヒットしているという説明でしたが、日本ではどうかな。一応、アルシネテラン配給で日本公開も決まっているようですが……。

 主人公ジャンヌは、いつも複数の男性と付き合っている恋多き女です。「恋多き女」というのは、ひとつの恋が終わってもすぐにまた次の恋に落ちる女性のことを指すことが多いようですが、ジャンヌの場合は男性をコレクションするように、複数の男性と平行して関係を持っています。そんな彼女は地下鉄の中で出会ったオリヴィエともすぐに恋に落ち、その日のうちにベッドインしますが、じつは彼はエイズに感染していたのです。彼女はそれに軽いショックを受けますが、「ゴムしてたから平気」「私はあなたが好き」という理由で、彼との交際を深めて行きます。オリヴィエにとって「死」はすぐ隣にある現実ですが、ジャンヌにとって「いずれ自分も死ぬ」ということと同程度の遠い出来事です。彼女はオリヴィエと付き合い始めてからも、他のボーイフレンドとの付き合いをやめません。しかし、オリヴィエが発病して自分の前から姿を消した時、彼女ははじめて自分が本当に彼を愛していたことを知るのです。

 この映画の特徴は、映画の途中からオリヴィエが完全に映画から姿を消してしまうことでしょう。この「失踪」こそ、映画の重要なモチーフになっています。普通なら、弱って行くオリヴィエと、彼を看病するジャンヌを描く「難病物」にしてしまいそうですが、この映画は最初からそうした路線を捨てています。オリヴィエという共通の友人を持つゲイの運動家とジャンヌも、彼が自分たちの共通の友達だということを知ることなく終わりますし、ジャンヌはオリヴィエの葬式にも参加せず、彼の家族に会うこともありません。こうした扱いは、オリヴィエの死を特定の個人の死にしてしまうのではなく、もう少し広がりのある、社会的テーマに結びつくものにしたいという意図によるものでしょう。

 ミュージカル映画としては、あまり僕の趣味に合う物ではありませんでした。これは最近のフランス・ミュージカル(全部を観ているわけではありませんが)全般に言えることですが、歌はあっても踊りがない点が物足りないのです。むしろ踊りだけで構成されている『ビッグ・ブロウスキ』などに、僕は往年のミュージカル映画の残滓を見ることができます。ミュージカルとしての約束事が効果を生んでいないのも、残念な点です。

(原題:JEANNE ET LE GARCON FORMIDABLE)


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