イヴの秘かな憂鬱

1998/06/08 メディアボックス試写室
フェミニスト学者の書いた論文を劇映画にした異色の作品。
フェミニズムの匂いが男の僕には気になる。by K. Hattori


 タイトルだけ見たらフランス映画かと思いますが、これはアメリカのインディーズ映画です。冒頭からフェミニズムっぽい言葉が出てくるので、どうせこれは理屈っぽい映画になるだろうと思って観ていたら、やっぱり理屈っぽくて参りました……。原作者はルイーズ・J・カプランというフェミニストの学者で、彼女が書いた「女性の倒錯:エマ・ボヴァリーの誘惑」という論文が原作だそうです。監督・脚本のスーザン・ストライトフェルドは、原作者すら反対する中、これをドラマに脚色し、見事映画化してしまった。論文をどうやれば劇映画にできるのか、僕は原作が読んでみたい。日本で翻訳出版されているのだろうか? 誰か教えてください。フェミニズム関係の本だから、翻訳があっても高いんだろうけど。

 理屈っぽい映画ではありますが、ストーリーは単純明解。目の前に判事昇進を控えた女性弁護士が、家族や職場でのトラブル、恋人や愛人との問題を抱えながら、ドタバタとあわただしい数日間を過ごすという話です。ただし、エピソードの随所に性的な象徴や、心理学的なシンボルが埋め込まれ、各場面が二重三重の意味を持つ構成になっている。つまり、この映画を読み解いて行くには、映画の中に隠された記号をひとつひとつ解読し、全体を解釈し直す必要があるのです。そこが、この映画の「理屈っぽさ」です。この映画をきちんと「評論」するのは大変だぞ。メッセージの中身を理解するには、最近のフェミニズムの潮流も理解しておかなきゃいけないしね。配給会社は、これをどう売るつもりなんでしょう?

 登場人物の設定に、リアリティはあまりありません。それぞれの人物が、女性の様々なタイプの典型として描かれることで、全体が「女性の生き方カタログ」みたいになっている。それぞれの違いを際立たせるために、あえて極端な性格付けをされているキャラクターたちです。でもこの映画には、男から見て「可愛いタイプ」の女は出てこない。この映画が描いているのは、そうした「外面的」なタイプ分けではなく、女性のライフスタイル別にキャラクターを分けているのです。例えば、「男に依存することで幸せをつかもうとする女」「完全に自立した男のような女」「女であることを軽蔑しながら、自らは女を武器にして世の中を渡って行く女」などです。

 とにかく、この映画は男性がほとんど出てこない映画です。主人公イヴの恋人が出てきますが、それは「セックスのお相手」として出てくるだけで、仕事の内容もわからなければ、彼が何を考えているかもわからない。これは徹頭徹尾、女性の手による、女性のための映画になっていて、男を寄せ付けない雰囲気があります。主演のティルダ・スウィントンは美形だけど近寄りがたいし、彼女の姉を演じたエイミー・マディガン(『フィールド・オブ・ドリームス』でケヴィン・コスナーの妻を演じた女優)も、セックスアピールを感じないしね……。僕にはあまりピンと来ませんでしたけど、この映画って、女性から観ると面白いのかな?

(原題:Female Perversions)


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