ビッグ・リボウスキ

1998/05/29 徳間ホール
コーエン兄弟の最新作がコメディ映画で一安心。
ミュージカル演出には嬉し泣き。by K. Hattori


 『ファーゴ』が各方面で絶賛され、アカデミー賞の脚本賞と主演男優賞までとってしまった、コーエン兄弟の最新作。僕は『ファーゴ』という映画の、したり顔で人間の業を語るところが大嫌いで、「コーエン兄弟はテクニックだけ見せてりゃいいんだよ!」と立腹していたので、今回の映画には大満足。この映画は登場人物が「いつものコーエン映画」になっているし、登場するモチーフや絵柄が、過去のコーエン作品の集大成とも言える内容になっている。映画の冒頭で、観客を画面に引き込むようにコロコロ転がって行く草の玉は、『ミラーズ・クロッシング』の帽子を思い出させるし、人気のない海岸線は『バートン・フィンク』のラストシーンだし、誘拐というモチーフは『ファーゴ』だし、ミュージカル場面に見られる往年のハリウッド映画に対する憧憬は『未来は今』だし、愛すべき犯罪者たちを巡るコメディは『赤ちゃん泥棒』でもやってました。この映画は、そんな過去のキャリアを全部ごちゃ混ぜにした上で、スケールとパワーをアップさせたような作品です。何より嬉しいのが、これがコメディ映画だという点。とにかく笑えます。

 レイモンド・チャンドラーの探偵小説を参考にしたという物語ですが、主人公を社会からドロップアウトして、しかも本人はドロップアウトしている自覚がない、甲斐性なしで、向上心のかけらもないろくでなしの男に設定したところがアイデア。演じているジェフ・ブリッジスが、相棒ジョン・グッドマンのいらぬお節介に振り回される様子が、グロテスクな笑いを生み出します。ジョン・グッドマンは『バートン・フィンク』でも、主人公を不条理な世界に落としいれる狂気の男を演じていた。今回の役も、狂気すれすれの凄みを感じさせます。『ブルース・ブラザース2000』もいいけど、グッドマンの映画としては、こっちの方が断然素晴らしいぞ。

 コーエン兄弟の常連である、スティーブ・ブシェミとジョン・タトゥーロがいい味を出してます。特にタトゥーロが最高! ジプシー・キングスの曲と共に彼が登場する場面は、本当におかしくておかしくてたまらない。『キングピン/ストライクへの道』のビル・マーレーもおかしかったけど、この映画のタトゥーロはそれ以上におかしい。『遥かなる帰郷』など、普段はシリアスな映画が多い人だけに、この落差は衝撃的です。

 僕が一番笑ったのは、主人公の幻想として、突然バズビー・バークレー風のミュージカルがはじまるところ。振り付けは『ウーピー』を参考にしたということですが、バークレー流の演出をかなり忠実にコピーしてます。映像がカラーなので、イメージとしてはバークレーのオリジナル作品より、ケン・ラッセルの『ボーイ・フレンド』に近いかな。女性ダンサーたちの群舞だけでなく、セットや大道具類まで、CGを使って再現しているのは見事。カメラが真俯瞰に陣取って、ダンサーたちのカレイドスコープ・ショットが始まった時は、喜びのあまり「おおお!」と声を上げてしまったぞ。

(原題:THE BIG LEBOWSKI)


ホームページ
ホームページへ