夢翔る人
色情男女

1998/05/26 東和映画試写室
ポルノ映画作りの舞台裏を描く、業界裏話的なコメディ映画。
映画冒頭にカレン・モクの濡れ場あり。by K. Hattori


 芸術家としての野心を持ちながら、作る映画がことごとくヒットに恵まれないでいる映画監督のシン。恋人メイと同棲しているが、目下失業中のシンは彼女に食べさせてもらうヒモのような生活。そんな彼のもとに、プロデューサーから仕事の依頼が飛び込んでくる。書き上げたシナリオを持って、いそいそと出かけたシンだったが、出資者は黒社会のボスで、映画の内容はポルノ。しかも主演女優のモニクはボスの愛人に決定済み。彼女は色気ムンムンの美女だが、演技はまるきりの素人だ。一度は仕事を断ろうとしたシンだったが、背に腹はかえられない。昔からの仲間をスタッフにして、気の乗らない映画撮影がスタートした。もちろん、平穏で済むはずがない。

 主人公シンを演じているのは、今日本でもっとも人気のある香港の大スター、レスリー・チャン。恋人メイを演じているのは、ブスを演じた『食神』の印象があまりにも強いが、本当はチャーミングな美人のカレン・モク。プロデューサーのチャンに扮しているのは、名脇役のロー・カー・イン。大根女優モニクを演じているスー・チーは、この映画をきっかけに活躍の場を広げそうです。監督は『つきせぬ想い』でアニタ・ユンを売り出した、イー・トンシン。スー・チーも売れるといいね。

 「映画を作る話」に映画ファンは弱いので、この映画でも採点は2割り増しぐらいになってしまう。ましてや、映画の中で周防正行監督の『変態家族・兄貴の嫁さん』が引用されていたりするから、その印象だけで採点は5割り増しになっちゃうよ。

 こうした有利なポイントがあるにもかかわらず、僕のこの映画に対する評価はやや低い。一番の問題は、シンとメイの関係が、やや疎かになってしまったことだろう。映画製作の話と、シンの私生活の話が揃って、はじめてこの映画のバランスがとれると思うんだけど、映画はスタジオの中の描写が大きすぎて、私生活の面が薄まってしまった。その分、映画作りの過程はリアルに作られていると思うけど、トータルな進行状況が見えないのがやや不満。進行状況がわかると、映画には時間のサスペンスが生まれたと思う。つまり「製作予定日数はあと何日。1日オーバーするといくら予算オーバー。それなのに監督が消えた!」とか、そういう話が盛り込めるようになる。また、スタッフの中に和気が生まれる様子に説得力が生まれるし、何より、シンとメイが疎遠になって行く様子も、それで幾分か明確になるはずなのだ。

 映画の序盤で、主人公が「映画の芸術性」と「商業主義」の板挟みになって苦しむくだりは面白い。これは使い古された議論ではあるけれど、映画製作の当事者たちにとっては、常に「いま目の前にある問題」に他ならないのだと思う。自分の作品作りに横やりを入れる人々に、どこまで妥協できるかというテーマは、『ラヂオの時間』みたいです。皮肉すぎて笑えないのは、売れない映画監督が自殺すると、それが話題になって映画が大ヒットするという話。これではまるで、伊丹十三ではないか。

(原題:色情男女/VIVA EROTICA)


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