冷血の罠

1998/05/21 徳間ホール
哀川翔主演の新作スリラー。監督は『雷魚』の瀬々敬久。
西島秀俊と黒沢あすかが好演している。by K. Hattori


 哀川翔の主演最新作は、『雷魚』や『KOKKURI』で一部の映画ファンに知られている瀬々敬久監督作品。渋谷区桜丘で起きる連続女性殺人事件を、主人公の私立探偵と、5年前に自殺した彼の妹の夫が、一風変わった方法で捜査するスリラー映画だ。物語は哀川翔演じる藤原という探偵が、依頼主である女性の身辺警護から戻った次の瞬間、その女性が何者かに殺されるところから始まる。マンション前の路上に、シートに包んだ人間の死体がドサリと落ちてくる場面は、かなのインパクトがある。被害者の手帳に藤原の連絡先が書いてあったことから、刑事たちが藤原のもとに事情聴取に来る。じつは藤原の妹も、5年前に同じ桜丘のビルから飛び降り自殺しているのだ。間もなく、桜丘の別のマンションで、小学生の女の子が殺される事件が起きる。これは連続殺人なのか?

 藤原は自殺した妹の夫、花園を訪ねる。花園は妻の自殺の原因が自分の浮気ではなく、何者かによって妻がレイプされたことが原因だと藤原に告白する。それ以来、花園は桜丘で起こる犯罪や不審事件を細かくファイルし、妻をレイプした犯人を見つけ出そうと独自の捜査を進めていたのだ。花園は調査ファイルを藤原に渡すと、勤めを辞めて姿を消す。残された調査ファイルから浮かび上がる花園の異常な行動。それは、調査を通じて花園自身が犯罪に傾倒して行く記録だった……。

 犯罪者の行動パターンを推理するには、犯人の気持ちに感情移入し、仮に自分が犯人であればどういう行動をとるかという点を、詳細にシミュレーションしてみることが必要だ。これは刑事が犯人を捕らえる際も必要だし、最近では「プロファイリング」と称して、犯人の性格や生活環境まで細かく分析する技術が発達している。ところが、この映画に登場する花園がとった行動は、それより一歩も二歩も踏み込んだものだった。彼は犯人の行動をシミュレーションするのではなく、犯人の行動を再現し、自らが犯罪の世界に足を踏み入れて行く。犯人の目で考えるのではなく、犯人そのものと自分をオーバーラップさせてしまうのだ。この映画の主人公は私立探偵の藤原だが、物語を作り上げ、引っ張って行くのは花園だ。藤原は常に花園の後を追いかけ、彼の行動を傍観することしかできない。彼をそんな中途半端な立場に留めさせているのは、死んでしまった妹の復讐をしようとする気持ちがあるからだ。花園の危険な復讐を、最後まで見届けたいという気持ちを、藤原は抑えられない。

 花園を演じた西島秀俊は非常にシャープで、主演の哀川翔を食いまくっている。彼は『アートフル・ドヂャース』にも出ていたけど、それより今回の映画の方が何倍もいいと思う。花園の元愛人を演じた黒沢あすかは、瞬間的な切れ具合だけで比べると、先日観た『BLUE FAKE』の方がすごかった。ただし、今回の映画は全編出ずっぱりで、しかもどこでもダレるところがなかったという意味で、彼女の存在は大きい。西島秀俊と黒沢あすかは、これから覚えておいてもいい俳優の名前です。


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