アナスタシア

1998/05/11 よみうりホール
ロマノフ王朝の皇女アナスタシアがたどる数奇な運命。
FOX製作の大作アニメーション映画。by K. Hattori


 20世紀初頭、歴史の荒波のなかに忽然と姿を消した、ロシア・ロマノフ王朝の皇女アナスタシア。20世紀フォックスが、20世紀も押し詰まった時期に放つ、20世紀最大のミステリーの映画化。新たにアニメーション・スタジオを設立し、元ディズニーのベテラン監督を招聘し、莫大な費用と手間を掛けて作られた超大作アニメーションだ。予告編を観ただけで、スケールの大きさは予想でき、今回は期待して試写に向かったのだが……。

 オープニングがいきなりCGなのに、まずは少し興醒めした。僕はCGそのものを否定するつもりはないけれど、この映画はCG部分とそうでない部分の馴染みが少しチグハグな気がする。オープニングのオルゴールもそうだし、雲の上に突き出した教会の尖塔から、下界に降りた瞬間も「あれれ」という感じだった。船の場面は安っぽい『タイタニック』みたいで、嵐にあう場面は、つい先日観た『長くつ下のピッピ』に迫力で負けていると思う。列車の暴走シーンは『銀河鉄道999/エターナル・ファンタジー』を少し高級にしたイメージか。群衆が歌い踊るモブシーンも、『ノートルダムの鐘』などで観ているから新鮮味はない。これらはすべてCG場面ですが、結局どれも何かの二番煎じに感じられました。もちろん、二番煎じだけにオリジナルよりは格段に画質が向上しているのは確かです。でも、それだけ。

 この映画もディズニーアニメ同様、ミュージカル仕立てになってますが、印象に残るナンバーは1曲もなかった。これが、この作品の印象を弱くしている致命的な欠点だと思う。歌さえ良ければ、主人公たちがじゅうたんで空を飛んでいるだけでも、観客は感動して涙を流すのにね。(『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」を観よ! 僕はあれで泣いたのだよ。)辛うじて面白く観られたのは、主人公たちがパリに来て歌う「パリス・ホールズ・ザ・キイ」というナンバー。これは20年代のパリ風俗をふんだんにもりこんだ曲になっていて、画面には空中サーカスやボードビル、ナイトクラブのラインダンス、当時「バナナ・ダンス」で一世を風靡していたジョセフィン・ベイカーなどが登場して楽しめます。

 物語もかなり物足りないのですが、これはアナスタシアの記憶が徐々に戻り、祖母に再会するまでのスリルに話が寄りすぎて、復活したラスプーチンの邪悪な妨害工作も、アナスタシアとディミトリの恋物語も盛り上がりに欠けるからでしょう。記憶が戻ったアナスタシアは、祖母と再会する喜びとともに、他の家族が全員殺されたという悲劇とも直面するはずなのですが、それが描けていないのも画竜点睛を欠いた。この悲劇があるからこそ、彼女は悲劇のヒロインなんだけど……。

 劇場のロビーで、アナスタシアとディミトリが互いに愛の言葉を口に出しかねる場面は、脚本の意図だけが目立って、演出が付いていかなかった。他にも同じような場面が多く、登場人物の感情だけが先走っている印象を受けました。脚本の構成に、もう一工夫ほしかった。

(原題:ANASTASIA)


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