レインメーカー

1998/05/08 GAGA試写室
ジョン・グリシャムの「原告側弁護人」をF・コッポラが映画化。
久々に見応えのある法廷物ドラマだ。by K. Hattori


 ジョン・グリシャムの小説「原告側弁護人」を、フランシス・フォード・コッポラが監督した力作。『ザ・ファーム/法律事務所』から『チェンバー/凍った絆』に至るグリシャム原作映画の中で、間違いなく傑作の部類に入る作品だと思う。傑作『依頼人』に勝とも劣らない、格調と風格に満ちた作品になっています。もともとマイケル・ダグラスが映画化権を持っていたところに、コッポラが参加して今回の映画になったもの。コッポラは前作『ジャック』で小品ながら手堅い演出ぶりを見せていましたが、今回の映画ではそれ以上に緻密な映画作りをしていると思う。今回彼は、監督・脚本・製作総指揮と、ひとり3役の大活躍ぶりです。

 主演は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』のマット・デイモン。法学校を出たばかりの新人弁護士が、街のゴロツキ相手の悪名高い弁護士事務所に就職し、先輩の弁護士アシスタントと共に独立。老婦人の遺言状作成や、保険金未払いで訴訟を起こそうとしている家族の弁護人になる話です。彼は法学部で習った理想とはかけ離れた実社会の中で、仕事の取り方を学び、法律の裏と表、法廷での駆け引き、欺まんに満ちたアメリカ平等社会の実体を学んで行く。広告では『ロミオ+ジュリエット』のクレア・デーンズがヒロインという面を強調していますが、彼女は本筋とは少し離れた脇の人物で、むしろ準主役と言えるのは、弁護士アシスタントを演じたダニー・デビートでしょう。この役がなければ、この映画はこれほど面白くはならなかったと思う。

 保険会社の弁護士役にジョン・ボイト、主人公が就職した弁護士事務所のボスにミッキー・ローク、裁判の担当判事にダニー・グローバー、保険会社の社長役にロイ・シャイダーなど、配役がじつに豪華です。こうした「豪華俳優陣」の映画は、俳優たちが持つそれぞれのカラーに引っ張られて、全体がちぐはぐな印象になり兼ねないのですが、そこは『ゴッド・ファーザー』シリーズのコッポラらしく、俳優たち個々の持ち味をうまく引き出して絶妙のアンサンブルを生み出している。主役スターだけを引き立てる「協奏曲」ではなく、全体のハーモニーをバランスよく配置した「交響曲」になっているわけです。法廷物の映画として、ストーリーの部分に何ら目新しい部分があるわけではありませんが、小さなシークエンスのひとつひとつまで目の行き届いた木目細かな演出ぶりと、全体の構成のダイナミズムの相乗効果が、この映画を超一級の出来栄えにしていると思う。

 名目上ヒロインになっているクレア・デーンズは、夫の暴力に絶える妻という役。『依頼人』のメアリー・ルイーズ・パーカーにも通じる「虐げられた女」かと思いきや、後半は聡明で根性のすわったところを見せ、彼女を助けようとした主人公を、逆に助ける側に回る。ほんの一瞬にして弱者が勝者となる人生の不思議を、この役が象徴的に表しています。出番は少ないですが、すごく印象に残る役であり、エピソードでした。

(原題:THE RAINMAKER)


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