シングル・アクション

1998/04/15 TCC試写室
『エル・マリアッチ』のカルロス・ガラルドが作ったネオ西部劇。
前半は黒澤の『用心棒』に似ている。by K. Hattori



 ロバート・ロドリゲスのデビュー作『エル・マリアッチ』で主人公マリアッチを演じたカルロス・ガラルドが、「ロドリゲスに続け!」とばかりに製作・監督・脚本・主演したワンマンショー映画。暗殺事件の捜査のため、メキシコの小さな村に潜入した秘密捜査員が、村を牛耳るボスに戦いを挑む物語。ノリは「流れ者のガンマンが村を救う」という西部劇タッチで、前半は黒澤明の『用心棒』です。主人公と彼の泊まるホテルのオヤジとの関係は三船敏郎と東野英治郎みたいだし、村にいるふたりのボスが村全体の権力をすべて握っているという部分も同じ。主人公は片方のボスに自分を売り込むため、反対勢力の手下を数人撃ち殺す。このあたりまでは、「おいおい、黒澤はこの映画に著作権料を請求した方がいいよ」とさえ思ってしまう。もっともこの映画にオリジナルがあるとすれば、黒澤の『用心棒』を無断翻案した海賊版『荒野の用心棒』です。海賊版をさらに無断翻案した場合、誰の著作権を侵害したことになるんだろう……。

 映画は中盤以降『用心棒』から離れ、独自の路線に突入する。村の一方のボスと思われていたマッコ大佐は、政府の仕事として、敵対するボスのカマロを監視していたのだ。バーの女主人をしている大佐の娘は、夜中に主人公の部屋を訪れ、彼に抱かれる。こうして物語の中に単純な敵と味方の関係ができてしまった時点で、この映画は『用心棒』からごく普通の勧善懲悪アクション映画になりました。もちろん、それはそれで悪くない。

 タイトルの『シングル・アクション』とは、主人公の持つSAA(シングル・アクション・アーミー)型ピストルのこと。これは西部劇に登場する、もっともオーソドックスな銃です。OK牧場の決闘で有名なワイアット・アープが持っていたバントライン・スペシャルも、SAAの銃身を長くしたものでした。今では性能のいいオートマチックタイプの銃が全盛ですし、リボルバータイプの銃も、引き金をひくだけで弾を発射できるダブルアクションになっています。SAAは実用性の面でこそ劣るようになりましたが、今でもスポーツ用ピストルとして高い人気を誇る銃です。オリジナルはコルト社の設計ですが、パテントが切れていることもあって、現在はいくつものメーカーからコピー銃が発売されています。

 この歴史的拳銃の名前をタイトルにしたわりには、劇中のガンアクションがいまいちなのは残念でした。銃に対するフェティッシュな描写という点では、『クイック&デッド』が最高だったからなぁ……。あれに比べると雲泥の差がある。結局この映画は、ガンマニアを喜ばせるようなものではない。マンガチックな登場人物たちの行動をみて、ニヤニヤ笑っていればいい映画だと思う。

 カマロの身の回りを世話している若き未亡人たち、ブロンディとブルネットがかっこいい。主人公に恋をするハルミより、自分のボスが殺されたらとっとと主人公側にくら替えして、同じ車で去って行くブロンディとブルネットの方が、よほど正直で信用できるような気がする。

(原題:SINGLE ACTION)



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