プルガサリ
伝説の大怪獣

1998/04/14 シネセゾン試写室
日本の『ゴジラ』スタッフが作った、北朝鮮製作の怪獣映画。
スタンダード画面とはもったいなさすぎる。by K. Hattori



 1985年に北朝鮮で作られた怪獣映画。噂はかねがね聞いていたものの、実際に映画を観るのは今回が初めて。日本にも海賊版のビデオは入っていたので、既に内容を知っている人も意外に多いかもしれません。この映画の監督は、韓国から拉致されて北朝鮮で数々の映画を作り、この映画の完成後に再び西側に脱出したシン・サンオクだとばかり思っていたのですが、今回試写室で渡された資料では監督名がチャン・ゴンジョになっていました。手元にある資料が「映画宝島・地獄のハリウッド」だけなので、別の資料もあたってみたいところですが、ひょっとしたら監督名を差し替えることで、今回の公開が可能になったのかもしれません。配給会社の資料を見ても、公開が伸びた理由が書いてないんだよね。

 この映画には、日本からゴジラ映画の特撮監督である中野昭慶と、ゴジラ役者の薩摩剣八郎が招かれ、撮影に参加しています。ちなみに今回名を抹殺させられたシン・サンオク監督は、韓国時代から日本の映画人と交流のあった人です。日本の映画もたくさん観ているのでしょう。『プルガサリ』はゴジラ映画というより、大映の『大魔神』シリーズを思わせる内容です。役人の搾取と圧政に苦しむ農民たちが反乱を起こそうとするが、首謀者は早々に捕まってしまう。父親も役人に殺された娘は、恋人も捕らえられて泣きの涙。偶然針で指先を突いて落ちた血が、父親の形見となった小さな泥人形の上に落ちた時、伝説の怪獣プルガサリが甦る。はじめは小さかったプルガサリは、周囲の鉄を食べて大きくなり、やがて農民たちの先頭に立って役人たちと戦いはじめる。

 話の内容はともかく、技術的な点で古臭さがにじみ出ている映画です。とても'85年製作の映画とは思えないほど、古びた画面に感じられてしまう。その理由は、カラー・スタンダードという映画のフォーマットであり、セット内での照明の当て方や役者のメイクなどにあります。特に画面サイズは致命的だし、これだけスケールの大きな作品でスタンダードとはもったいなさすぎる。序盤のセット撮影はいいとしても、中盤以降のロケーション撮影と、1万人とも言われるエキストラを使った大規模な戦闘シーンなどは、ワイドスクリーンでこそ生きてきたのではないだろうか。この映画を観ていると、なんだか無理矢理画面の左右を切ったようで狭苦しい。

 各地で起こる農民の反乱事件に業を煮やした役人たちが、防御用の武器を大量に作るため、農民たちから農具を奪って鋳潰してしまおうとするエピソードがあります。農具がなくては農民は飢え死にしてしまう。しかし役人は「国があってこその生活だ」と言い捨てて、無慈悲にも農具やなべ釜まで取り上げる。これでは、国民を餓えさせたまま軍事費を肥大させた、現代北朝鮮のカリカチュアではないか……。ちょっと皮肉な内容です。

 役人に勝利した後も、「恩人だから」とプルガサリに農具やなべ釜などの金物を差し出す農民たち。この姿もまた、現在の北朝鮮みたいで気になりました。

(漢字題:不可殺/英題:PULGASARI)



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