クレヨンしんちゃん
電撃!ブタのヒヅメ大作戦

1998/04/10 東宝第1試写室
スパイ・アクション映画のパロディとして大人も十分楽しめる、
『オースティン・パワーズ』の対抗馬? by K. Hattori



 お子さま向けテレビアニメの劇場版でありながら、メインターゲットである子供たちだけでなく、引率の親たちも必ずや満足できる痛快娯楽作です。世界征服を狙う悪の組織の陰謀と、それを阻止しようとする秘密組織の戦いに、幼稚園児たちが巻き込まれるという筋立て。中身はバリバリのスパイ・アクション映画で、本家本元のジェームズ・ボンドも顔負けの面白さ。今年の映画興行界はスパイ・アクションの花盛りで、007の『トゥモロー・ネバー・ダイ』があり、本格的な『アサインメント』があり、パロディ版の『オースティン・パワーズ』があり、本作『クレヨンしんちゃん/電撃!ブタのヒヅメ大作戦』ありと、各社粒揃いの傑作揃い。夏以降も、続々とスパイ映画が登場するといいですね。

 この映画の製作者たちは、ハリウッド製のアクション映画をよく研究している。冒頭のハッキング場面から、追い詰められた女スパイが飛行船からダイビングする場面までのスピード感、リズム、テンポ。どれをとっても一級品のできばえ。空に飛びだしたスパイが、あわや飛行船の尾翼に蹴られそうになるあたりなど、宮崎アニメからハリウッド経由で日本に逆輸入された、現代アクション映画の呼吸です。洋画ファンをにやりとさせるポイントは他にもあって、筋骨隆々たる男性スパイの声がアーノルド・シュワルツェネッガーの吹替えと同じだったりする。家族愛や夫婦愛が強調されるあたりは、まるでキャメロンの『トゥルー・ライズ』です。彼が追っ手の追撃をかわしながら反撃するシーンでは、物陰から腕だけ突き出して銃を乱射して時間を稼ぐという、リアルなガンプレイも拝める。映画ファンなら嬉し泣き!

 上映時間1時間39分ですが、内容盛り沢山で1時間まではあっという間に過ぎて行く。いよいよ敵の基地に潜入し、いよいよ大団円かと思わせるまでが1時間。物語はスパイ・アクションから一転して、サイバー空間を舞台にした『ウォーゲーム』か『ヴァーチャル・ウォーズ』かという話に急展開。ここからいよいよ、本作の重要なキャラクターである「ぶりぶりざえもん」が登場するなど、事態はますます風雲急を告げてくる。ラストはナミダナミダの大感激ハッピーエンディング。すごく満足できる映画でした。東宝の春のアニメは、『ドラえもん』『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』の3本を全部観ましたが、一番のお気にいりは今回観た『クレヨンしんちゃん』で決まりです!

 この映画は、シンエイ動画、ASATSU、テレビ朝日の製作。この手の娯楽映画作りのノウハウは、テレビ局や広告代理店にしか残っていないのだろうか? これと同じレベルの面白さを持つ映画は、『クレヨンしんちゃん』というシリーズ作品の枠内でしか生まれないのだろうか? 僕もこのシリーズを観たのは今回が初めてだったのですが、この作品を親子連れにだけ独占させておくのはもったいないぞ。邦画各社は、この映画のスタッフに別の映画も撮らせればいいのに……。


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