モンタージュ
証拠死体

1998/04/03 GAGA試写室
ピーター・ギャラガー扮するカメラマンが連続殺人に巻き込まれる。
新人監督の処女作で、演出に粗削りな面もある。by K. Hattori



 『あなたが寝てる間に…』の寝たきり俳優、ピーター・ギャラガー主演のサスペンス・スリラーです。この俳優はあのギョロギョロした目玉がチャームポイントですが、それを「うっとうしい!」と感じている人には、願ってもない映画でしょう。この映画の前半では彼の目に生気がなくてギョロギョロ度2割減、中盤から彼の両目は涙でうるんでギョロギョロ度が半分に下がり、終盤ではさらに半分になります。

 彼が演じている主人公ジョニーは、愛する妻を亡くして心にぽっかりと穴が空き、人間に対する関心を失ってしまったカメラマン。副業でギャングのゆすりのネタも撮っている彼が、ゆすりの仲間が次々と殺されて行く中で、少しずつ人間らしい心を取り戻して行く話です。死体を「物体」としか考えず、ゆすりの相手を「不幸な誰か」としか考えなかった彼が、徐々に被写体の側に感情移入して行く。単純な筋立てですが、面白いです。

 この作品が監督デビュー作のジョン・ラフォーは、『ドラゴン/ブルース・リー物語』や『レリック』の脚本家。もともとニューヨークで写真家をしていた人だけあって、この映画に登場するカメラマンにはリアリティがあります。特に暗室の場面やラボ屋とのやり取りがすごくよくできていて、映画に登場したカメラマンとしては出色のできでしょう。中でも暗室の描写は、フィルムの現像から焼付け、現像まで、一挙手一投足が様になっている。ネガを処分してしまった写真を再現するため、ベタ焼きからプリントを起こすシーンも、嘘やごまかしなしに、ちゃんと合理的な説明をしています。この映画の通りにプリントを焼けば、ちゃんとベタ焼きからプリントが作れるはずです。(映像は甘くなるけどね。)

 『ファーゴ』のアカデミー女優フランシス・マクドーマンドと、怪人俳優ジョン・リスゴーが映画の格をだいぶ上げています。マクドーマンドは昨年オスカーを得た旬の女優ですが、基本的には脇役の人。今回の役は、彼女の柄ではないと思う。むしろ今回の映画では、リスゴーがよかった。この人は悪役が多い俳優ですが、そうでない役でも味のある芝居をする人。積み上げてきた人生の年輪を、観客に感じさせる役作りが素晴らしい。『ペリカン文書』はよかったね。今回の映画でも、主人公と懇意な刑事という重要な役柄で登場しています。

 ラフォー監督の演出は要所要所を堅実に押さえた正攻法ですが、脚本以上のものを演出で生み出して行く力強さには、まだまだ欠けていると思う。それを一番感じるのは、主人公ジョニーとアリスの関係です。ジョニーの義兄、ジェリーとの関係にも、同じ欠点を感じる。こうした周辺人物の描写には、中心部と同じ量のエピソードを避けないため、どうしても印象的なエピソードやキャラクターで引っ張る必要がある。この映画では、その引っ張りの力加減が不明瞭で、物語の本筋と脇のエピソードがしっくりとつながってこない。話がばらばらになって、少し弱くなってしまったのは残念です。

(原題:JOHNNY SKIDMARKS)



ホームページ
ホームページへ