ねじ式

1998/04/02 イマジカ第1試写室
つげ義春の原作を石井輝男監督がオムニバス映画化。
主演は売れっ子の浅野忠信。by K. Hattori



 つげ義春の同名劇画を映画化した石井輝男監督の最新作を、関係者向けの初号試写で観てきました。この作品には準備段階から傍観者として関わり、スタッフの様子や撮影の進行状況などを見守ってきました。まずは、とてもここには書けないような数々のトラブルを乗り越え、作品がきちんと完成したことを、推移を遠巻きに眺めていた野次馬のひとりとして喜びたい。そして、出来上がった映画が「面白い映画」であったことに安堵し、ひとりの観客として大いに楽しんだことを告白しておきたい。

 石井監督によるつげ作品映画化は、'93年の『ゲンセンカン主人』が最初。これは「李さん一家」「紅い花」「ゲンセンカン主人」「池袋百店会」の4話からなるオムニバス作品でした。企画段階では「ねじ式」も入っていたようですが、この時は映画化されていません。それから5年たち、改めて『ねじ式』の映画化に挑んだのだから、石井監督としては並々ならぬ意気込みがあるのでしょう。今回は「別離」「もっきり屋の少女」「やなぎや主人」「ねじ式」が映画化されていますが、当初脚本の中にあった「海辺の叙景」が、諸事情からカットせざるを得なくなったのは残念でした。今回の映画がヒットして続編を作ることができたら、ぜひ「海辺の叙景」に再チャレンジしてほしいです。

 映画のオープニングタイトルで舞踏グループ「アスベスト館」のメンバーが奇怪な踊りを見せるのを観て、石井監督のファンなら、すぐに『元禄女系図』のオープニングを思い出すでしょう。あの映画では、暗黒舞踏の創始者である、故・土方巽が踊っていました。アスベスト館は土方直系の舞踏グループで、今でも石井監督と交流があるようです。『ねじ式』ではこのオープニングの映像が、主人公ツベの頭の中にあるイメージだという設定になっている。つげファンからは「違うぞ!」という意見も出そうですが、それに対しては石井監督から「違って当然!」という反論があるでしょう。

 この導入部でわかることは「これからはじまる映画は石井流の『ねじ式』ですよ」という宣言なのです。この日は映写前に監督の短い挨拶もあったのですが、そこで監督は「『ねじ式』は名作ですから、これがきっかけになっていろいろな人が自分流の『ねじ式』を作ればよい」と語っていました。この映画は単純な劇画のフィルムへの移し替えではなく、石井輝男という映画作家なりの原作解釈です。映画は原作の作った世界を壊したり、踏みにじったりしていない。むしろ、原作への愛情と敬意が感じられるものに仕上がっていると思います。

 個人的に面白いと思ったのは、「やなぎや主人」で原作どおりに「網走番外地」が流れるくだりと、「ねじ式」の汽車の場面でした。特に汽車の場面のミニチュアは、ヒッチコックの『間諜最後の日』みたいでいいぞ。

 この日は本編の後に予告編も流れましたが、「ファンタジー!」「ファック!」「フリーク!」という惹句には大笑いした。監督自作のコピーだそうです。やるなぁ。


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