てなもんや商社

1998/03/31 松竹第1試写室
中国貿易を扱う小さな商社に勤めた小林聡美の奮戦記。
面白い。続編が観たい。ヒットして。by K. Hattori



 動員力のない松竹洋画系(東劇系)で公開されるのがもったいない、近年の日本映画には珍しい会心のコメディ。腰掛け入社のつもりで商社に勤めた主人公ひかりが、対中国貿易の最前線でめきめきと成長して行く様子をユーモアたっぷりに描いている。主演は小林聡美。この人は色気抜きの映画でもがさつにならず、じつにさっぱりとした芝居を見せてくれる女優さんです。監督はこれがデビュー作の本木克英。『サラリーマン専科』シリーズの朝原雄三監督と同期入社の社員監督です。『時の輝き』でデビューした朝原監督が、早々にシリーズ作品の監督に押し込まれてしまったことを嘆いていた僕ですが、こうして次々社員監督を生み出して行こうとする松竹の態度には好感を持っています。できれば本木監督には、今後も同系統の映画を続けて撮っていってほしい。今回の映画が成功して『てなもんや商社2』ができたら、僕は観ます。(それじゃまたシリーズ映画だっての!)

 人物がじつによく描けている映画です。主人公のキャラクターも面白いが、田中邦衛演ずる父親が最高。就職がなかなか決まらない娘に、「お金を得るには、稼ぐ、盗る、貰う。この3種類しかないんだ。お前もそのどれにするか、早く決めなさい」と言う場面や、つまらない会社で3年を無駄にしたという娘に「3年無駄にしたなら、3年長生きしなさい。人生の回り道は、年をとると味になる」という台詞……。こんなクサイ台詞も、田中邦衛がしゃべると嘘っぽくなくなるのです。

 渡辺謙が演じている、主人公の上司、王(ワン)課長も面白い。日本に住む華僑で、中国貿易のエキスパート。仕事ができて、部下の面倒見がよく、男女差別は一切なし。しかも愛妻家で、料理が上手。新しい仕事に対するチャレンジ精神旺盛で、どんな困難な仕事でも楽しみながらやる気構えを持っている。部下や取引先が失敗をしても、相手の面子を立てて強くはしからない。この映画を観た人は、王課長が「理想の上司」ナンバーワンになること必至。口髭が怪しいけど、それは許す。

 ひかりの隣席にいる菅野先輩こと香川照之や、柴俊夫扮する岩田部長もいい感じ。岩田の「日本人がようやく稲作を始めた頃、中国人はシルクロードで国際貿易してたんだもんなぁ……」という嘆息は名台詞でしょう。王課長の妻が桃井かおりという配役もゴージャス。中国側の食えない商人ぶりも堂に入っており、わざとらしさがない。この映画は全編が、含蓄のある名台詞と名場面のオンパレード。安っぽい色恋沙汰に流れることなく、ばりばり働く女性を描いたストーリーは見ごたえがあるし、字幕を使って時間経過を説明するテンポもいい。会話の途中にSEを使ったギャグが何ヶ所かあるのが、もう少しこなれてないとか、倉庫で商品のたたみ直しをする場面のコマ落しがいまいちギャグになりきれていないなど、気になる点がないではないが、これが監督のデビュー作と考えれば「その意気やよし!」と応援したくなってしまいます。とにかく、面白いのでオススメです。


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