アサインメント

1998/03/24 ソニー・ピクチャーズ試写室
国際テロリスト“ジャッカル”逮捕の舞台裏を描くサスペンス・アクション。
監督は『スクリーマーズ』のクリスチャン・デュゲイ。by K. Hattori



 ミュンヘン・オリンピックでのイスラエル選手団を虐殺や、ウィーンで起こったOPEC官僚人質事件などで知られる実在のテロリスト、カルロス“ジャッカル”サンチェスは、1994年にスーダンで逮捕されました。この映画はカルロスに周到な罠を仕掛け、追いつめて行った男たちの知られざる戦いを描くサスペンス・アクション。カルロスと生き写しのアメリカ海軍将校を替え玉に仕立てて敵地に潜入させ、カルロスを有形無形に支援するKGBに、「カルロスの裏切り」をPRするという作戦です。カルロスが裏切ったと知ったKGBは、組織の全勢力をあげてカルロスを消しにかかるはずです。

 テロリストと直接対決するのではなく、結果として敵の手も借りながら、周囲からじわじわと網を狭めて行くというアイデアが秀逸です。カルロス逮捕までの詳細は明らかにされていないので、この映画に描かれているのは完全なフィクションですが、「ひょっとしたら、本当にこんなことがあったのかも……」と思わせる説得力があります。監督は『スクリーマーズ』のクリスチャン・デュゲイ。カルロスと替え玉のひとり二役を演じているのはアイダン・クイン。この人は目がガラス玉みたいに澄んでいて、残酷そうな表情を見せると、本当に残忍な男に見えてくる人です。一方で、優しい強い男を演じても似合う人なのです。『アサインメント』で演じているのは、役柄として両極端なふたりの人物ですが、クインが演じるとそれが彼の中で溶け合って、じつにリアル。

 主演俳優を見てもわかるとおり、この映画はあまりお金のかかった作品ではありません。それでもこの映画にがっちりとした芯が通っているのは、主人公を特訓する教官役で出演しているドナルド・サザーランドとベン・キングスレーの、いぶし銀のような貫禄に助けられている部分が大きい。ふんだんな屋外でのロケ撮影も、絵一が安っぽくなるのを食い止めていました。逆に弱いのは女優陣ですが、この映画には、大きな役で登場している女優がほとんどいない。基本的に「男の映画」なのです。

 オープニングで見せる、パリのカフェからカルロスのアパートまでの長回しは、合成を使ったインチキなものですが効果的です。ちゃんとラストシーンへのウリが仕込まれているあたりはさすが。この映画は所々に印象的な合成カットがあって、この直後のカフェ爆破事件で、手榴弾がゆっくりと落ちて行く描写は、はったりがきいていて面白かった。これは他の場面でも言えることですが、動と靜のコントラストが強く打ち出され、見ていて画面やエピソードにすごくメリハリがあります。

 欲を言えば、各エピソードにもう少し時代色や地域色を出せると、映画に風格が出たと思う。映画を観ていると、パリもベイルートもイスラエルも東ベルリンも、全部同じに見えてしまう。これは撮影や美術にもうひと工夫あってよかったかも。あと序盤でもう少し、カルロスの逃走方法や潜伏場所についての情報がほしかった。でないと、作戦の効果が観客によく見えてこない。

(原題:THE ASSIGNMENT)



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