カドリーユ

1998/03/10 日本ヘラルド映画試写室
4人の男女が織り成す恋の駆け引きを描いた古風なロマコメ。
美術や衣装がわざと舞台劇風になっている。by K. Hattori



 1938年にも1度映画化されているサッシャ・ギドリの同名戯曲を、ヴァレリー・ルメルシェの監督・主演・音楽で再映画化。内容は一組のカップルと、それを囲む男女を巡る、いささか古風なロマンティック・コメディです。全然内容は違いますが、僕はこれを観てルビッチの『生活の設計』を思い出した。あの映画は、ノエル・カワードの舞台劇が原作だったはずです。当時はこの手のロマ・コメが舞台でも全盛だったのね……。

 ホテルの一室に舞台をほぼ限定して物語が進むところや、人物が入れ替わり立ち代わり登場してはすれ違う構成など、いかにも舞台劇の雰囲気。それに加えてこの映画では、大道具のカラーリングや設計も意図的に書割り風に仕上げ、衣装もそれに負けないぐらいカラフルにするなど、わざと舞台劇風に演出しています。舞台劇の映画化作品は、努力して舞台臭を消そうとするあまり、かえって舞台劇の作法と映画の作法の食い違いが目立って「元舞台劇」ということを強調してしまいがちですが、この映画では元舞台劇をわざわざ舞台劇風に演出することで、逆に完成された作品は「映画」として面白く仕上がる結果になった。これは面白い。

 原作者ギドリは、先頃公開された『ボーマルシェ/フィガロの誕生』の作者としても知られる劇作家で、1957年には亡くなっているのですが、こうして未だに作品が映画化されるところを見ると、フランスでは国民的作家なのかもしれません。今回の『カドリーユ』には、『ボーマルシェ』で主人公の妻を演じていたサンドリーヌ・キベルランも出演しています。

 『カドリーユ』という映画は、物語やテーマについて云々するようなタイプの映画ではないと思う。描かれている男女関係は、ソフスティケイトされているものの、日常的リアリティはない。一種の恋愛遊戯というか、「物語のための物語」みたいなところがあって、すんなりと感情移入してどうこう言う類の話とは思えない。この映画は、一風変わった立場に追い込まれた男女4人の関係や、次々交換されて行く言葉のやりとりを通して、その関係が少しずつ変化して行く様を楽しむものだと思う。台詞のテンポは抜群で、まるで音楽を聴いているように心地よい。(おかげで、また少し寝てしまったほどだ。)ゲームかパズルのように、時々刻々と変化して行く登場人物たちの心理。その描写のディテールを楽しむのが、この手のコメディの楽しみ方だと思う。大人が演じ、大人が楽しむ、大人のためのおしゃれな喜劇です。

 主な登場人物は4人。同棲6年目のフィリップとポーレット。その共通の友人であるクローディーヌ。アメリカの映画スター、カール。それぞれ、アンドレ・デュソリエ、ヴァレリー・ルメルシェ、サンドリーヌ・キベルラン、セルジオ・カステリットが演じているが、4人が4人ともじつに上手い! 特にフィリップ役のデュソリエは、二枚目風に見える二枚目半ぶりに味があります。

(原題:Quadrille)



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