アサシンズ

1998/03/02 TCC試写室
年老いた職人堅気の殺し屋が後継者を育てる物語。
フランスの中学生も病んでいる。by K. Hattori



 モノクロのざらついた映像とテーマの力強さが鮮烈な印象を残す映画『憎しみ』で、日本に紹介されたマチュー・カソヴィッツ監督の最新作。今回は自身で出演もしていますが、もともとこの人は「監督兼俳優」として自分で映画を撮っていた人。俳優としては『フィフス・エレメント』にも出演しているらしいのですが、一体全体どこに出てたんでしょうね。今回の『アサシンズ』は、自分の後継者を育てようとする年老いた殺し屋と、好むと好まざるとに関わらず弟子になってしまった若い男の物語。初めての仕事は1940年代で、一本立ちしてから数えても40年以上になるというベテラン殺し屋を演じるのは、フランスの名優ミシェル・セロー。若い弟子を演じているのが、カソヴィッツ監督です。

 『憎しみ』でパリ郊外に住む若者たちに蓄積して行く感情の澱を描いた監督が、今回は老人の映画を撮るのかと思っていたら、そういうわけではなかった。この映画の主人公は、やはり若者の側なのです。監督自身が演じているマックスは25歳の若者。その弟分のメディは13歳。このふたりが実質的な主人公で、老殺し屋のヴァグネルは、ふたつのエピソードを橋渡しする役目を担っている。話の流れやキャラクターの性格付けなどから見るに、監督が本当に描きたかったのは、13歳の少年メディの側にあるのは明らか。メディのエピソードは終盤の40分ほどですが、それまでの1時間半をマックスの物語にしたのは、ずいぶんと遠回りな伏線です。

 この映画は途中で主役が交代するという意外な仕掛けがあるのですが、この場面があまりショッキングでないのはなぜだろう。マックスの退場はこの映画中最大のクライマックスだと思うのですが、あまり盛り上がっていないのは残念。盛り上げるためには、事前にメディ関連のエピソードをもっと出したり、マックスの精神的な脆さを示すエピソードを提示しておく必要があった。意外性を狙うというのは「え〜、そうなっちゃうわけ?」では効果が半分なのです。「なるほど、そうなるのか!」が物語に劇的効果を生むんだよね。この映画でも、主役交代がある程度の必然を伴ったものでないと、ドラマチックな効果は生まれない。この映画でも、事前にマックスの心理描写やメディの性格描写をしているのですが、まだ少し足りないんです。これは量を書き足すのではなく、ふたりの関係や現状を象徴的に示すエピソードがひとつだけ考えられれば、それで解決したことだと思う。時間配分なども、もう少し考えるべきではなかっただろうか。全体に、もっとコンパクトになる映画です。

 13歳の殺し屋というモチーフは、最近マスコミを賑わせている中学生の非行事件を連想させます。それだけに、ラストシーンは衝撃的。したり顔で事の顛末を解説してみせる評論家の顔が、日本のマスコミの現状にオーバーラップして見えてくる。劇中登場するテレビ受像機の中に、しばしば日本のアニメ(「天地無用!」)が挿入されることも、そんな印象を強めることになった。
(原題:ASSASSIN(S))



ホームページ
ホームページへ