アンナ

1998/02/24 徳間ホール
1966年にテレビ用に製作のフランス製ミュージカル映画。
すいません、寝ちゃいました。by K. Hattori



 最近試写で寝ることが多い服部です。すいません、また寝ちゃいました。この作品は1966年製作のテレビ映画で、中身は『女は女である』のアンナ・カリーナ主演のミュージカル・コメディ。監督は『ガラスの墓標』のピエール・コラルニック。作詞作曲はセルジュ・ゲンズブール。もともとフィルムで撮影されながら、テレビ用ということであまり注目されなかった作品のようです。田舎から都会に出てきた娘が、都会で本当の恋を見つけられないまま、また田舎へ帰って行くという筋立てや、駅の場面で始まり、駅で終わる構成などは、2年後にイギリスのマイケル・サーン監督が作った『ジョアンナ』とすごく似ていると思う。ひょっとしたら、サーン監督は『アンナ』を観ているのかもしれない。

 アンナ・カリーナ主演のゴダール映画『女は女である』をつい先日観たばかりですが、あちらはミュージカル映画の手法をパロディにしたような不思議な作品でした。カリーナが歌う場面もありますけど、演出としてはミュージカル映画に最も近い非ミュージカルだった。この『アンナ』はそれよりはよほど普通のミュージカル映画なんだけど、この頃すでにミュージカル映画というジャンルそのものがパロディの対象でしかなかったから、やはり印象はパロディ風になってしまう。サブ・タイトルに『ミュージカル・コメディ』と入れる以前に、1966年に軽いミュージカルを作ればそれは自動的にコメディにならざるを得ないという現実があるのです。

 ミュージカル映画は、ブロードウェイの舞台からスタジオに持ち込まれて独自の進化を遂げた映画の1ジャンルなんだけど、映画全体にある程度の虚構性がないとドラマが成立しないのです。MGMが徹底してスタジオのセットにこだわったのは、それが虚構なりのリアリズムを生み出すために必要な作業だったからだと思う。そういう意味では、たぶんスタジオに否定的なヌーヴェル・ヴァーグの手法と、虚構の中の虚構のドラマから何らかの真実をすくい上げようとするミュージカルでは、相性が悪すぎるような気がする。この作品については、寝てしまったこともあるのであまり断言する気にはなれないけど、一般論としてはそう感じます。(この映画はおそらく、後日もう1度観ることになるでしょう。)

 田舎から出てきたばかりの主人公アンナは、駅の構内でCMを撮影の現場にぶつかります。この時、偶然カメラがアンナを撮影していたことに、その時は誰も気付かないし、気にも留めていない。ところが広告代理店の社長セルジュは、写真の中のアンナを発見して多いに心を動かされる。彼は写真のアンナに恋をしてしまうのです……。CM撮影中に偶然ヒロインに出会うという設定や、暗室の中で印画紙にアンナの姿が浮かび上がってくる場面は、アステア&ヘプバーンの『パリの恋人』から露骨に影響を受けています。ただしハリウッド映画と違って、これはフランス映画。ありきたりなハッピーエンドでは終わらないのです。(やっぱりもう一度観よう。)

(原題:ANNA)



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