卓球温泉

1998/02/23 東宝第1試写室
家出した主婦が、卓球を通じて温泉場の村おこしに強力する。
『Shall we ダンス?』の専業主婦バージョン。by K. Hattori



 家出した主婦が、山奥の温泉で卓球を通じた村おこし運動の中心人物になる物語。主演は松坂慶子。監督・脚本の山川元は、伊丹十三の『ミンボーの女』、周防正行の『ファンシイダンス』『Shall we ダンス?』などで助監督を務めていた人で、この映画が2本目の監督作となる。「卓球」と「温泉」という、日本人なら誰でも知っていそうで、じつはよく知らないふたつの素材を組み合わせ、そこに専業主婦の漠然とした不安感を盛り込んだ脚本は、「社交ダンス」と「中年サラリーマン」を組み合わせた『Shall we ダンス?』とつい比べてしまう。製作会社は大映だし、映画のウリも「『Shall we ダンス?』のプロデュースチーム第2弾」というものなので、作り手側も周防作品を十分に意識しているようだ。

 今の日本映画界に欠けているのは、図々しいまでの「ものまね精神」だと、僕は思っている。映画批評家は興行的にこけた映画についてはその理由をあれこれ分析したり、揚げ足取りをしたりするくせに、ヒット作については漠然とした論評しか加えない。例えば『もののけ姫』や『タイタニック』がなぜあれほどヒットしたか、誰もその答えを見つけられないでいる。もっともこれほどのヒットになると、これは社会現象なので、一介の映画評論家には論評不能かもしれないが、では例えば『Shall we ダンス?』や『失楽園』程度のヒット作についてはどうなのか。もしこうしたヒット作の「ヒットの理由」がきちんと分析できているのなら、そこから導き出される「ヒットの方定式」に乗っ取って、ある程度ヒット作を連打することが可能なはずなんだけど……。

 分析して方程式を作らないまでも、ヒット作に似た映画を作って、柳の下の2匹目のドジョウを狙うぐらいはすぐにできるはずだ。なぜそれすらしないのか、僕は常々気になっていた。(ちなみに、柳の下に2匹目のドジョウは必ずいるが、3匹目はいないというのが世の定説になっている。)今回の映画が『Shall we ダンス?』の影響下にあるのだとしたら、これはまさに「柳の下のドジョウ」狙い。僕は偉いと思います。

 出来上がった映画は、邦画のプログラムピクチャーとしては水準の仕上がりですが、物語の組み立てなどには疑問もないわけではない。根本的な問題として、この映画の骨組みがぐらついていることがあげられます。この映画は、スポーツ映画的な要素とホームドラマの混合物ですが、物語を作るにあたっては、スポーツ映画の方向で構成を一本化した方がよかったと思う。こういう映画は、ガッチリと一定の型にはめて作った方が、細部のエピソードなどでは逆に自由度が増すものです。

 主人公・園子のキャラクターにあまり魅力がないのが、決定的にマズい点です。この人物については、もうすこし脚本で細部まで書き込んでほしかった。彼女が旅館に居着く様子にしても、彼女と卓球との関わりにしても、あとほんの少しだけ肉付けをしてくれるだけで、映画は2倍も3倍も豊かなものになったでしょう。


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