ボッカチオ'70
〔完全版〕

1998/02/12 日本ヘラルド映画試写室
デ・シーカ、フェリーニ、ヴィスコンティなどが参加したオムニバス映画。
日本初公開時に割愛されたエピソードが復活。by K. Hattori



 タイトルにある“ボッカチオ”とは、14世紀イタリアで活躍した有名な作家の名前。この映画は彼の代表作「ボッカチオ」のように、複数の語り手が物語を持ちよるオムニバス作品になっている。参加した監督は、ヴィットリオ・デ・シーカ、フェデリコ・フェリーニ、マリオ・モニチェッリ、ルキーノ・ヴィスコンティの4人。ひとつひとつの映画は1時間弱の短編・中編作品だが、4つ合せると上映時間3時間25分の大作となる。この映画は1962年に日本でも封切られているが、その際は第3話が割愛された国際版での上映だった。4つのエピソードをすべて揃えての日本公開は、今回が初めてだそうだ。映画製作から36年目の〔完全版〕公開である。

 ところでタイトルにある“70”の意味が僕にはさっぱりわからなかったんですが、これはどんな意味を持つ数字なのでしょうか。映画の製作年は1962年なので、邦題にある『'70』という表記は、本来おかしいのではなかろうか。資料では原題が『BOCCACCIO'70』になっているんですが、オープニングのタイトルには『70』とあるだけで、これが西暦を示しているものかどうかはわからない。70ミリ映画の意味ではないし……。

 この映画は日本でもLDが発売されていたようなのですが、そちらは今回上映されたものとエピソードの配列が違うようです。今回の上映では「くじ引き」「アントニオ博士の誘惑」「レンツォとルチャーナ」「仕事中」という順序ですが、LDでは「レンツォとルチャーナ」「アントニオ博士の誘惑」「仕事中」「くじ引き」という順番で収録されているようです(95年版の「ぴあシネマクラブ」による)。オムニバス映画ではエピソードの順番が結構重要だと思うんですが、これは一体どちらが正しいんでしょう。また、日本公開時は3つのエピソードをどういう順番で配置したのでしょう。

 日本で公開された国際版では、マリオ・モニチェッリが監督した第3話「レンツォとルチャーナ」が割愛されていたらしいのですが、これは単純にキャスティングが他のエピソードより地味だからで、今観ると、内容的にはこれが一番面白いと思いました。現在の観客である僕にとっては、ソフィア・ローレンとアニタ・エクバーグとマリサ・ソリナスとロミー・シュナイダーの中で、誰が有名で誰が無名かなんて、あんまり関係がないですもんね。どれもこれも「昔の女優さん」ですから……。

 それにしても、この映画に出てくる女性たちと、現在の女性が置かれている地位を比べると、文字どおり隔世の感があります。くじの景品にされてしまうソフィア・ローレン、登場するなり「猥褻だ!」と口汚なく罵られるアニタ・エクバーグ、結婚退社を強制され、上司からはセクハラの標的にされるマリサ・ソリナス、夫を相手に売春するロミー・シュナイダー。僕が第3話を気に入っている理由は、この4つのエピソードの中では、この話が一番現代に共通するテーマを持っていると思うからです。ラストの朝の風景には、ちょっと感動しました。
(原題:BOCCACCIO70)



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