アルテミシア

1998/02/09 シネセゾン試写室
17世紀に活躍した女流画家アルテミシアの青春時代を描く映画。
当時の工房の様子が細かく再現されている。by K. Hattori



 17世紀のイタリアで活躍し、美術史に登場した初の女流画家として知られるアルテミシア・ジェンティレスキの伝記映画。この映画で描かれているのは、彼女が少女時代を過ごした修道院から出てから、当時有名な画家であった父の工房で画家修業をし、父の仕事の共同制作者でもあった画家アゴスティーノ・タッシと出会って恋に落ち、やがて悲劇的な結末を迎えるまでの数年間を描いている。彼女はこの映画に描かれた事件の後も画家として生活し、1653年に60歳で亡くなっている。

 現在も残されている作品以外、ほとんど私生活について述べている資料のないアルテミシアだが、この映画に描かれた「レイプ裁判」については、不完全ながら資料が保管されていたらしい。資料が不完全だからこそ、そこには映画製作者の創作が及ぶ余地があり、アルテミシアという実在の人物に、現代的な視点から新たな命を吹き込むこともできる。この映画に登場するアルテミシアが、どの程度現実の彼女を再現しているのかは知らない。しかし、ここには紛れもなくアルテミシアという生きた女性が、魅力たっぷりに描かれている。

 当時は「女性だから」という理由で、画家も様々な制約を受けなければならなかった。アカデミーで正規の教育を受けられない、男性のヌードをデッサンすることが許されないという制約が、アルテミシアを芸術面で飢餓状態にさせる。彼女は優れた師を求めて、父の仕事仲間となったフィレンツェの画家アゴスティーノの押し掛け弟子となる。彼もアルテミシアの才能を認め、手取り足取り教えているうちに、やがてふたりは恋に落ち、自然に結ばれる……。しかしそれを知ったアルテミシアの父は激怒し、アゴスティーノを「強姦罪」で訴える。

 アルテミシアの父オラーツィオは、本来自分ひとりで担当するはずだった教会の内装壁画の仕事に、アゴスティーノが加わったことが気に食わない。彼はこの若い画家に仕事を奪われ、名誉を傷付けられたと思っている。こうした気持ちを抑えつけ、相手を立てようとするのは、オラーツィオが紳士だからです。でも娘がアゴスティーノと関係していると知った瞬間、それまで押さえつけていた感情がすべて爆発する。彼は娘の名誉を守りたいと言っているが、それは半分嘘だ。彼は娘を傷つけられたことで、自分の体面が傷つくことを恐れている。アゴスティーノが自分から仕事を奪い、名誉を奪い、今度は娘の純潔を奪ったことが許せない。彼は怒りに我を忘れ、その後なにが起るかを知らぬまま、アゴスティーノを訴える。そして彼らは、すべてを失うのです。

 主演のヴァレンティナ・チェルヴィは、今後活躍が期待される新人女優。ドラマ部分もよくできていますが、「よくできている」を超えるものはない。それより、17世紀イタリアの絵画工房の様子が、丹念に再現されていたのが面白いと思いました。フレスコ画を描く場面も興味深いです。西洋美術に興味のある人は、絶対に観た方がいい映画だと思います。

(原題:Artemisia)



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