三毛猫ホームズの推理
ディレクターズ・カット

1998/02/02 シネセゾン試写室
大林宣彦が監督したテレビドラマの再編集ディレクターズカット版。
ムードはあるけどミステリとしては落第。by K. Hattori



 赤川次郎の人気ミステリ「三毛猫ホームズ」シリーズの1作目を、『ふたり』『あした』などで赤川作品の映画化に定評のある大林宣彦監督が映像化し、96年9月にテレビ朝日系で放送されたもの。今回キネカ大森で公開されることになったのは、テレビ版に30分の未公開映像を加えた「ディレクターズ・カット版」。大林監督というひとは、近年上映時間が長くなる傾向があるようで、この映画も2時間を超えてます。今回の劇場公開は、2月21日に放送される「三毛猫ホームズ」の第2弾を控えてのパブリシティの一貫か、はたまたビデオ発売をにらんだ箔付けか……。

 物語の舞台は函館です。名門女子大の学生が殺され、それがきっかけになって、構内に広がる女子大生売春組織の存在が明らかになる。体面を重んじる大学は、警視庁に極秘調査を依頼。そこで東京から現地に派遣されたのが、陣内孝則扮する片山刑事だ。函館で彼を迎えたのは、亡くなった父の親友で、今は函館南署の署長をしている三田村。遅々として進まぬ捜査を嘲笑うかのように、第2、第3の殺人事件が発生。片山を追いかけるように東京から出てきた妹も、連絡が取れなくなってしまうなど、片山の悩みは尽きない。はたして犯人は誰だ?

 僕は原作を読んでいないので、この映画がどの程度原作に沿った脚色なのかは知らない。しかし、この脚本の構成にはかなり問題があると見た。事件の発端は、函館で起った女子大生殺人事件であり、主人公・片山の目的は、そこから浮かび上がった女子大生売春組織の捜査だ。ここで既に、物語がねじれ始める。なぜ主人公は、事件の中核である女子大生殺しを捜査せずに、派生事件である女子大生売春を捜査するのか。答えは簡単。女子大生殺しは、函館の警察が捜査中の事件であり、そこに部外者の主人公が加わることはできないからだ。であれば、函館警察内部で進む殺人事件捜査と、主人公が進める売春組織の捜査を並行して描き、どこかで交差する点を見つけるのが定法ではないだろうか。ところが、この映画はそうならない。この映画には、女子大生殺人事件の捜査過程がまったく描かれていないのだ。

 本来「女子大生殺し」と「売春組織の捜査」はまったく別のものであるはずなのに、作り手の側に両者の混同があるのではないだろうか。物語は最後に、ふたつの事件が二通りの道筋をたどって解決する。しかし中盤に両者の混同が見られるため、この大団円は、強引にふたつの事件を引き裂いたような印象を与えるのだ。

 主人公が捜査らしい捜査をまったくしないのも気になる。彼がやっていることは、女子大生とお茶を飲むことと、町外れの喫茶店で妹とおしゃべりをすること、父の友人であった署長と食事をすることぐらい。そうしているうちに、事件の方が彼の側に近づいてくるというわけです。なんとも冴えない話ではありませんか。

 妹役の葉月里緒菜が、実生活同様の「オヤジ殺し」ぶりを見せている。山本未来もちょっといいかな……。


ホームページ
ホームページへ