十二夜

1998/01/22 シネセゾン試写室
とにかく笑える。特にナイジェル・ホーソーンの熱演には大笑い。
シェイクスピア喜劇をトレバー・ナンが映画化。by K. Hattori



 シェイクスピアの古典喜劇を、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで長年芸術監督として活躍した経験を持つトレバー・ナンが映画化。出演はヘレナ・ボナム・カーター、ベン・キングズレー、ナイジェル・ホーソーンなど、なかなか豪華。主人公ヴァイオラを演じているのは、トレバー・ナン夫人でもあるイモジェン・スタッブス。古典劇を、古典劇の演出家が映画化し、出演者もシェイクスピア劇のベテランばかりということで、すごくお堅い映画を想像していたのですが、これが何とも楽しい映画でした。たっぷり笑えて、しっかり泣けます。やぱりシェイクスピアは偉大な作家ですね。ケネス・ブラナーの『ハムレット』も早く観に行かねば……。

 物語は嵐にもまれる船の中から始まります。双子の兄妹、セバスチャンとヴァイオラは、船の座礁で海に投げ出されて離れ離れ。互いに相手は死んだものと思ってしまう。やがてヴァイオラは男装し、オーシーノ侯爵の小姓セザリオとして働き始めます。侯爵は土地の令嬢オリヴィアを愛し、彼女と結婚したいと願っている。彼はセザリオ(ヴァイオラ)にオリヴィアへの使いを頼むのだが、なんとオリヴィアはそのセザリオに恋してしまうのです。しかしこの時、セザリオことヴァイオラは、侯爵を愛し始めている自分に気づいています。

 男の身なりはしていても、心と身体は女のまま。令嬢オリヴィアの愛を受け入れることはできず、自分の主人であるオーシーノ侯爵への愛を告白することもできぬ苦しさ。目の前の人を愛しながら、その人が別の人と結ばれる手助けをしなくてはならないとは……。このあたりは、なんだかゲイムービーみたいですね。自分が「じつは女だ」と告白してしまえば、その時点で今ある友情や信頼関係を壊してしまう。だから自分の気持ちを胸に秘めたまま、彼女は侯爵と令嬢の間を行き来するのです。この切ない気持ちに同情して、思わず泣けてきます。

 この映画で一番笑ったのは、オリヴィアの家の執事頭、マルヴォーリオを演じるナイジェル・ホーソーンの熱演。この執事には自信過剰なところがあって、若くて美しい女主人が、密かに自分に恋をしているのではないかと考えている。そんな気持ちに、火をつけ、油を注いだ人たちがいたからたまらない。彼の密かな願望は、事実としての確信に変わる。彼は狂喜乱舞して、突拍子もない行動をするようになります。ホーソーンは『英国万歳!』でも狂った英国王を演じていましたが、この『十二夜』で見せる狂乱ぶりは、それを数十倍にパワーアップしたものです。本人は極めて真面目だし、必死に行動しているんだけど、それが真面目で必死であればあるほど、滑稽な行動になるという面白さ。これは必見です!

 役者同士のアンサンブルが見事で、ラストのハッピーエンドもきれいに決まってます。序盤はやや舞台劇っぽさが鼻につく部分もありますが、中盤以降はそれが映画の味になってくる。とにかくこんなに笑った映画は久しぶり。僕は大好きになった映画です。

(原題:TWELFTH NIGHT)



ホームページ
ホームページへ