ポストマン

1998/01/13 丸の内ピカデリー1
(完成披露試写会)
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』以来7年ぶりのケビン・コスナー監督主演作。
物語のアイデアは面白いのに、演出が平板すぎる。by K. Hattori



 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー賞の監督賞や作品賞を受賞したものの、その後まったく映画を演出しなかったケビン・コスナーが、7年ぶりに監督復帰したSF大作。『ダンス・ウィズ・ウルブズ』も長かったけど、今度も長いぞ、2時間56分。はっきり言って、この内容でこの上映時間は長すぎる。もっとエピソードを整理して、タイトに編集し直せば、もう少しましな映画になるんだろうけどな。何十年か前、映画の世界に「著作権」などというものがうるさく言われていなかった時代には、各国の都合で長い映画を適当に短く編集してしまったものです。今はそんな乱暴なことはできませんけど、この映画に関しては、そうした乱暴さや野蛮さを復活させるべきなんじゃないだろうか。

 戦争や異常気象、疫病などで、地球上の環境が一変し、人類の大半が死に、国家も滅んでしまった近未来が舞台。ケビン・コスナー扮する主人公は、そんな世界を旅する放浪者だ。ある日、彼は道端で朽ち果てている郵便配達車を見つける。積まれていた手紙類を持って町に行けば、そこで食事にありつけるかもしれない。彼は郵便配達夫の衣服を身につけ、手紙がどっさり入った鞄を持って町に出かける。「新しい政府が樹立されて、郵便事業が再開された。郵便配達夫には、寝床と食事と移動用の食料を用意しなければならない」と宣言する主人公は、町の人々に問われるまま、口からでまかせで現在の大統領名や、アメリカ合衆国の新政権について語り始める。要するに、この男は詐欺師なのです。

 地球を襲った異変の後、小さな町単位に分断されたアメリカは、暴力集団が我が物顔で闊歩する暗黒時代になっている。そこに訪れた「新政府樹立」の知らせが、人々に大きな希望を与える。このアイデアは、すごく面白いと思った。主人公の語る「政府」はフィクションなんだけど、そのフィクションが人々に本物の「希望」や「夢」「勇気」を与え、小さな地域を越えて、アメリカという国をまとめあげて行く。この映画は、アメリカがアメリカである価値観はフィクションであることを、あたまから認めているのです。アメリカは実体のない虚像によってひとつにまとまっている。しかしそんな「虚像」こそが素晴らしいのだと、完全に開き直っている。

 主人公が口からでまかせで話した郵便機構が徐々に広がって、ひとつの自律した組織に成長して行きます。この映画には最後の最後まで、政府というものが出てこない。この映画の世界では、小さな町がそれぞれ小さな自治組織となり、それを郵便が有機的に結び付ける、中心のない国家になっているのかもしれません。これって、インターネットにちょっと似てるよね。

 3時間の映画としてはストーリーが平板で、退屈ですが、黒澤時代劇からの影響などもあちこちに見えて、映画ファンとしては見飽きません。なぜ『ユニバーサル・ソルジャー』が駄目で『サウンド・オブ・ミュージック』なのかが、よくわかんないんですけどね……。


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