ジェファソン・イン・パリ
若き大統領の恋

1998/01/13 ユニジャパン試写室
フランス駐留大使時代のトマス・ジェファソンを描く歴史劇。
意外や意外、ニック・ノルティが抜群にいい。by K. Hattori



 ジェイムズ・アイヴォリー監督が、『日の名残り』と『サバイビング・ピカソ』の間に撮りあげた歴史ドラマ。アメリカの第3代大統領、トマス・ジェファソンが、全権大使としてフランスに滞在した時代を描いている。副題は『若き大統領の恋』になっているが、この時点でジェファソンは40歳代だから、決して若くはないと思う。演じているのも、撮影年に還暦のニック・ノルティだから、それを「若き大統領」と言うのはちょっと……。

 ジェファソンは、アメリカの歴代大統領の中で、いまだに人気の高い高名な人物だそうです。独立宣言の起草者、民主党の創設、フランスからのルイジアナ購入、ヴァージニア大学の創設などを行なった功労者。リンカーンは彼のことを「アメリカ民主主義の父」と賞賛したらしい。南部出身者でありながら、奴隷制には反対し、自ら保有する奴隷に自由を与えたこともあります。じつはジェファソンは黒人メイドを愛人にし、彼女に数人の子供を産ませているのではないかと言われています。彼の奴隷制に対する反発には、黒人女性と愛し合った経験が影を落しているのでは……、というのがアメリカでは定説なのです。この映画は、そのあたりを描いています。

 元アクション・スターのニック・ノルティが大統領役と聞いて、ちょっと違和感を感じたのですが、画面に登場したノルティ=ジェファソンを一目観て、そのキャスティング・センスに感心してしまった。この映画の舞台になっている18世紀末は、アメリカも建国して間もない頃です。アメリカは若く荒々しい国であり、その国からやってきたジェファソンは、アメリカの気風を象徴するような荒々しさが求められる。この映画に登場するジェファソンは、宮殿に入り込んだ高貴な野人です。無骨で力強い体躯に、洗練された作法を身につけ、自分の国に誇りを持つ愛国者。政治家というより、百戦錬磨の軍人のような雰囲気を漂わせる人物です。これがノルティの柄に意外と合っている。びっくりしました。

 ジェファソンの心の安らぎとなる黒人メイド、サリー・ヘミングスを演じているのは、『妻の恋人、夫の愛人』や『グリッドロック』にも出演している、タンディ・ニュートン。出演年としては、この映画と『妻の恋人、夫の愛人』は同じ年なんですが、この映画ではしっかり15歳の少女になりきっている。ちょっと舌足らずな南部訛り、よく動く手足、くるくると変わる豊かな表情など、観ていると目が釘付けになります。『妻の恋人、夫の愛人』『グリッドロック』でも注目していたんですが、この映画を観て、俄然彼女が気になり始めました。

 この映画はジェファソンの伝記映画ですが、「パリのアメリカ人が目撃したフランス革命」という切り口も持っています。宮廷に出入りする催眠療法士メスマーは、『CURE/キュア』にも名前が登場した伝説的人物。この映画ではメスマーを、『私家版』の性格異常作家、ダニエル・メズギッシュが演じているのが面白い。いかにも怪しげな雰囲気がよく出ています。


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