極道懺悔録

1997/12/22 GAGA試写室
男たちを翻弄するヒロインが美人に見えないから映画が嘘になる。
撮影にもう少し工夫ができればよかったのに。by K. Hattori



 ヤングマガジンに連載中の同名人気コミックを、『鬼火』『恋極道』の望月六郎監督が映画化。コミック版は直木賞作家・浅田次郎が原作ということで、今もっとも旬の素材を映画化したものと言えます。バブル最盛期の'80年代を背景に、経済やくざの手足となって働くパクリ屋という主人公のキャラクターは、バブル崩壊後の今でなくては共感を呼べない人物でしょう。主人公・浅川次郎を演じるのは、『デボラがライバル』で吉川ひなのの相手役を演じていた松岡俊介、相棒J役は鶴見辰吾、恋人・久美子を金谷亜未子、3人を窮地に追い込む組長役を火野正平が演じています。

 この映画の最大の欠点は、主人公の恋人久美子が、画面の中でちっともきれいに見えないという部分です。登場した直後から、ひどくやつれた顔をしていてオバサン臭い。これでは主人公が「この女は俺の女だ。俺が守る」と思う気持ちに説得力が生れません。資料によれば、金谷亜未子は主人公を演じた松岡俊介より1歳下とのことですが、画面の中では少なくとも5,6歳年上に見えます。久美子は映画の中でも要になる人物なのだから、キャスティングの段階で主人公とのバランスを考えるべきだったし、さまざまな事情で彼女しか使えないのであれば、撮影時に照明を工夫するなどして、もっときれいに撮ってあげるべきでした。

 映画の中に何度も登場する濃厚なラブシーンのことを考えると、この役を引き受ける女優がなかなかいないであろうことは容易に想像できます。映画の終盤で次郎とセックスしている久美子が、「次郎としてると感じるの!」と叫ぶ場面などは鳥肌ものの迫力ですから、彼女の芝居自体が駄目なわけではない。有無を言わさぬ肉体のつながりの実感が、久美子という女を支えていることがよくわかる場面です。金谷亜未子という女優に関しては、この場面の熱演に免じて許してしまう。少なくとも、彼女は自分の与えられた役を精一杯に演じているし、演技がきちんとドラマを生み出しています。

 映画の中ではところどころで、彼女がすごく輝いて見える場面がないわけではありません。そうした場面では、かならず間接照明をきれいに当てて、彼女を美しく撮ろうという工夫をしている。そうした細やかな神経が全編に行き渡れば、この映画は今よりもっともっと面白いものになったはずです。主だった顔のしわぐらいは照明で消せるんです。もちろん低予算の映画で照明に時間も金もかけられないという事情はわかりますが、次郎と久美子が工場の上下で再会する場面や、関西から東京に来たやくざが久美子を見て「ええ女やないか」と感嘆の声を上げるシーンなど、ポイントとなる場面では観客にも「久美子は美人だ」と思わせなければいけません。

 鶴見辰吾扮するとぼけたやくざJが、なかなかいい味を出しています。『GONIN』シリーズなどでは力の入った演技をしていましたが、こうした肩の力が抜けた役でこそ、鶴見辰吾のいい面が出るのかもしれません。


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