Touch
タッチ

1997/12/15 TCC試写室
『スクリーム』のスキート・ウーリッチがキリストの奇跡を現代に甦らせる。
善意の奇跡が人々の欲望を刺激するドタバタ喜劇。by K. Hattori



 ポール・シュレイダーが久しぶりに撮り上げた監督・脚本作。『ゲット・ショーティ』と同じエルモア・レナードの原作を脚色し、スピード感のあるドラマを組み立てています。『ゲット・ショーティ』も豪華な出演陣が話題になった映画ですが、この『Touch/タッチ』も負けずに豪華なキャスト。ブリジット・フォンダ、クリストファー・ウォーケン、スキート・ウーリッチ、ジーナ・ガーション、トム・アーノルド、ジャニーン・ガラファロなど、僕の好きな俳優ばかりが大挙して出演している。これはキャスティング・ディレクターの趣味が、僕と同じなんでしょうね。

 超能力者の話です。といっても、スキート・ウーリッチ扮する超能力者は、ただのエスパー君ではない。カトリックの司祭としてジャングルの奥地に奉仕活動に行き、そこで現地の人々の病気や怪我を手かざしで治していた人物です。洗礼名からジュヴナルと呼ばれている若い男が両手で病人の身体に触れると、病人はたちどころに癒やされ、同時にジュヴナルの両手と脇腹からは鮮血がタラタラと流れ落ちる。まるで、磔刑にされたキリストのように……。そんなことから、この能力は一種の「奇跡」「神の技」ということになってしまう。カトリック教会は彼の能力を正式に奇跡と認めることを忌避し、彼は追い出されるように都会に出てきたのだ。

 ジュヴナルの能力を知る急進派のキリスト教団体は、彼の力を布教活動に利用しようと画策する。偶然彼の能力を嗅ぎ付けた詐欺師も、彼を使って一儲けを企む。多くの人たちがジュヴナルに群がる中で、彼は音楽プロモーターのリンと出会い恋に落ちる。

 超能力を扱った映画だと、最近はトラボルタ主演の『フェノミナン』などがすぐ浮かびます。(そういえば、トラボルタは『ゲット・ショーティ』の主演俳優でもありましたね。)今回『Touch/タッチ』でジュヴナルから甘い汁を吸おうとする詐欺師を演じたクリストファー・ウォーケンも、『デッド・ゾーン』で孤独な超能力者を演じていました。ジュヴナルの恋人リンを演じているブリジット・フォンダは、『リトル・ブッダ』で息子をチベット仏教の寺院に送る母親を演じていました。スキート・ウーリッチも現代魔女映画『クラフト』に出演してます。今回のキャスティングは、超自然現象がまかり通ってしまう配役になっているんですね。

 渦中のジュヴナルがテレビのインタビューで「神は信じるけど、教会は信じない」と語る気分は、現代アメリカ人が共通して持っている気分ではないだろうか。この映画は彼の能力を単なる「超能力」ではなく、一貫して「奇跡」として描いている。その「奇跡」の所有権や正当性を誰が保証するかという点が、この映画のひとつの面白さでしょう。しかも面白いのは、プロテスタントの国アメリカを舞台にして、カトリック的な「奇跡」を描いている点です。小ぶりな印象の映画ですが、話そのものは二重三重の面白さがあります。


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