パラダイス

1997/12/03 シネカノン試写室
金城武主演の青春映画。監督は新鋭パトリック・ヤウ。
不思議な味わいのある小品です。by K. Hattori



 日本でもアイドル的な人気が高まっている金城武主演の青春映画なんだけど、ジャンルとしてはアクションなのか、コメディなのか、ラブストーリーなのか判然としない曖昧さやあやふやさが漂う珍品。この曖昧さは欠点ではなく、この作品の魅力になっている。主人公と恋に落ちる女殺し屋に扮しているのはカルメン・リー。ふたりの役名は、金城武が武(モー)であり、カルメン・リーはカルメンという。何たる安直さ。もっとも映画の中には名前を呼び合う場面がないので、これは便宜上付けられている名前でしょう。

 主人公・武が殺しの仕事を請け負い、その代打として刑務所帰りのカルメンを雇う。始めは互いに警戒していた二人だが、やがてカルメンの過去が少しずつ明らかになるにつれて新たな信頼関係が生まれ、愛し合うようになるという話。しかし、この映画の面白さはこんなストーリーラインにあるわけではない。そもそも武がなぜ殺しの仕事を請け負う必要があるのか疑問だし、わざわざ引き受けた仕事を代打に依頼する理由も判然としない。ひょっとしたら何か理由の説明がされていたのかもしれないが、僕はそこを観逃してしまった。もっとも、そんな理由などこの映画には必要ないのですが……。

 ボンヤリとした表情を崩さず、何を考えているのかさっぱりわからない主人公・武。オープニングの麻雀シーンで見せる運の悪さと、それを他人に当たり散らすマナーの悪さは感心できない。雀荘から叩き出され、殴られてもめげない根性はあるけど、そこから雀荘に戻ってさんざん袋叩きにあうのは無謀と言うしかない。この段階で「こいつは理解不能。ダメ!」と受け止めて投げ出してしまうか、それとも「なんだかわからないけど、おもしれえじゃん!」と思うかで、この映画の評価は二分されると思う。僕は主人公の行動を不可解だと思いつつも、彼の行き場のない憤りや苛立ちをそこに感じて、映画を投げ出すことなく最後まで観続けた。

 結局彼は、現状の自分自身にもっとも苛立ちを感じているのでしょうね。何とかして自分を変えたいと思いながら、その方法がわからずにいる。やくざまがいの連中と麻雀をしたり、殺し屋を雇おうとしたり、やくざ相手に立ち回りを演じたりするのも、自分が傷ついても構わないと思っているからこそできることなんでしょう。むしろ彼は、自分が傷つくことを欲している。傷つくことで、自分が何者かに変わることを期待している。武とカルメンが出会い、少しずつ愛を育んで行く中で、無軌道に見えた彼らの行動に少しずつ方向性ができてくる。でも、もともとそこまで自分たちを追い込んだのは、彼ら自身なんだよね……。

 武とカルメンが夜の街を歩きながら、路面電車の到着を待つシーンが美しかった。その前のベッドシーンより、この場面の方が胸に染みる愛の場面になってます。主人公たちの台詞が極端に少ないことも、ふたりの静かなドラマの進行を語るには効果的でした。


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