フル・モンティ

1997/11/28 20世紀フォックス試写室
失業した男たちが、一夜千金を夢見て男性ストリップに挑む。
ロバート・カーライル主演の社会派コメディ。by K. Hattori



 タイトルの『フル・モンティ』というのは、一糸まとわぬ丸裸、スッポンポン、フルチン丸出し状態のこと。鉄鋼不況で失業した男たちが、追いつめられたあげく男性ストリッパーとして舞台に立つまでを描いたコメディ映画です。主演はロバート・カーライル。この人は今年、ものすごくたくさんの映画が公開されてます。一番のヒットはやはり『トレインスポッティング』ですが、その後も『GO NOW』があり、『フル・モンティ』があり、近々『カルラの歌』も公開されます。

 カーライルは『トレインスポッティング』のベグビー役があまりにも強烈な印象を残しているのですが、他の役をみると「ちょっと不良っぽいところもあるけどイイ奴」というキャラクターを演じることが多いようですね。(少なくとも今のところは。)今回も別れた妻と子供の親権問題で争っている失業中の男という役柄を、じつに誠実に演じている。身体も小さくてきゃしゃだし、役者として芯の強いところはあっても線が細く神経質そうに見えるタイプなので、これからも大衆的な大スターには決してならない人だと思いますが、うまい役者として映画界で着実に自分の地位を固めている感じがします。

 映画は1970年代初頭のニュースフィルムからはじまります。イギリス北部の町、シェフィールド。鉄鋼業で栄えるこの町は活気にあふれ、人々は生き生きと働き、国の経済をリードしているという誇りにあふれ、その前途は限りなく明るいものだった。ところが、それからわずか25年後。鉄鋼所は次々と閉鎖され、町には職を失った男たちがあふれ、町全体が輝きを失ってどんよりと暗く沈んでいる。鉄鋼所が閉鎖されたあとに残ったのは、自信を喪失した男たちと、鉄鋼所のブラスバンドだけ。(このあたりは、『ブラス!』という映画のパロディじゃなかろうか。)鉄鋼所の勤めしか知らない男たちがなかなか転職できないのに比べ、女たちはどんどん社会に出て、今では家庭の経済を女たちが支えている。

 産業構造の変化に取り残された男たちを描いた映画ということで、この映画は『ブラス!』と比較してもいい映画だと思う。映画の構造やエピソードの組み立ての面において、『フル・モンティ』は『ブラス!』に勝っている。人生の落伍者のレッテルを貼られた男たちが、起死回生をはかって大博打を仕掛けるというアイデアは、ハリウッド映画にもよくあるパターン。さんざん使いまわされた古典的手法を借りることで、この映画には力強さと安定感が備わった。エピソードがつぎはぎだらけになっていた『ブラス!』に比べると、この差は大きい。もっとも物語があまりにも安定しすぎて、最後まで意外性がないのは欠点でしょう。もう少し揺らしてもいい。

 男たちをフリチンにまで追いつめるにしては、序盤から中盤にかけてのエピソードの厚みが足りない。主人公の事情はわかるんだけど、他の人たちの話がもうすこし加わると物語に説得力が増したと思う。ぎりぎりまで追いつめれば、最後のステージに開放感が生れたはずです。


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