デッドサイレンス

1997/11/21 東映第1試写室
人質篭城事件に対応するFBI捜査官のプロフェッショナルぶりがすごい。
派手なクライマックスより、地味な前半がいい。by K. Hattori



 刑務所を脱獄した3人組の強盗犯が、逃走中にたまたま出くわした聾学校のスクールバスを乗っ取って人質に取り、町外れの廃工場に篭城する。駆けつけたFBIのベテラン捜査官ジョン・ポターは、迅速な事態収拾をはかるためにテキパキと指示を出して行く。画面サイズがカラースタンダードだったので、もともとはアメリカでテレビ放送されたものかもしれない。1時間39分という最近にしてはコンパクトな映画だが、見どころは中盤までの1時間。最後に思いがけないどんでん返しがあるのだが、これはいかにも付け足しっぽくて、それまでのドキュメンタルなトーンから離れてしまうのが残念。どこかで工夫して、前半の緊張感を維持したまま終盤に入れれば面白かったのだが、生憎それはかなわなかった。

 人質になっているのが聾唖者ということで、手話を使った外部とのコンタクトという「お約束ネタ」が登場します。人質のひとりが、閉じ込められた2階の窓から外部の警官たちに手話でサインを送り、それを望遠レンズで補足しながら、手話通訳が建物内部の様子を捜査陣に伝えて行く。ただしこの方法は、情報の流れが一方通行になります。人質は望遠鏡を持っていないので、外部からの連絡を受けることができないのです。この映画のすごいところは、普通の映画ならここをクローズアップしてサスペンスの種にするであろう部分をあっさりと描いてしまうところ。むしろここに、「使える情報は何だって使うが、無い物ねだりをしてもしかたがない」という捜査官のプロフェッショナルぶりが見えてきます。

 ジェームズ・ガーナー扮するポター捜査官は、人質救出作戦の失敗から、人質と救出チームの双方に多くの犠牲者を出してしまったという苦い経験を持っている。ポターはそうした失敗について言い訳をしない男です。そして、自らの失敗からきちんと教訓を得られる男でもある。彼は現場に乗り込んだ直後に、「救出チームから犠牲者は出さない」と宣言します。「最悪の場合、人質は犠牲にする」とも言い切ってしまう。自らを犠牲にしても人質を救おうという映画的ヒロイズムとは、まったく無縁の実務的対応。おそらく、実際の人質事件などでは、ポターのような実務家が手腕を振るうのでしょう。

 ポターは人質を切り捨てようとしているわけではない。人質救出を最優先するあまり、犯人に不要な譲歩をしない、救出チームに危険を冒させないというのが、彼の方針です。あとはその枠内で、より多くの人質を救出するため、ありとあらゆる方法を試してみる。あらゆる可能性を検討して、そのための準備を怠っていないから、不測の事態が起きても慌てることがないのです。

 「事件発生から○時間○分」というスーパーが要所に挿入され、観客は事件の発生から結末までの目撃者になります。超人的なヒーローは登場しません。ここにあるのは、リアルなプロの人質交渉です。大爆発も、派手な銃撃戦はありません。でもすごく面白い。地味な公開をされる映画ですが、一見の価値はあります。


ホームページ
ホームページへ