売春暴力団

1997/11/12 東映第1試写室
売春暴力団の若い組長と腹違いの妹との禁断の恋の行方。
情念のたぎる異色の恋愛映画です。by K. Hattori



 大阪で売春を稼業とするやくざの若親分と、そんな兄を「男」として慕う妹。やくざ映画というより、道ならぬ恋に翻弄されるふたりを描く異色の恋愛ドラマとして、楽しんで観ることができた。女と見ればだれかれとなく口説きまくり、シリコン入りのちんちんを武器に征服して行く筋金入りのやくざ、待田金太郎を演じるのは、つい先日観た『タオの月』でストイックな修験者に扮していた永島敏行。まじめな役が多い人ですが、今回はけっこうはまってる。その腹違いの妹・桜子を演じるのは、モデル出身で、この作品が映画デビュー作となる川名莉子。金太郎と敵対する別のやくざ組織の若頭役に、勝新ジュニア鴈龍太郎が扮している。物語の基本はこの3人の三角関係。特に金太郎と桜子の関係がメインだ。

 映画は前半が特に素晴らしい。共に愛人の子供として生れ、肉親の愛情に乏しい環境で育った金太郎と桜子が、普通の兄妹以上に強い絆で結ばれているという事情。桜子の父親が実際には不明確なことから生じる、桜子自身のアイデンティティの危機。肉親ゆえの強い絆が、「ひょとしたら血のつながりがないのかも」という部分で恋愛に転じて行く様子。桜子にとって、父親は赤の他人でしかない。彼女にとっては、金太郎だけが気を許せる他者なのです。でもそんな彼女の気持ちを、金太郎は素直に受け止めることができない。妹の中に「女」を感じながらも、金太郎は彼女の「妹」としての部分に「家庭」を求めている部分があるのでしょう。

 兄の手配で受けた大企業への入社を拒絶し、街頭で男を拾っては1回5万円で売春している桜子。そうすることで、売春稼業の兄と少しでも接点を持ちたいのか、それとも、そうした歪んだ形でのセックスが兄への気持ちを紛らわすことになるのか。前半のクライマックスは、彼女の売春をとがめる金太郎と桜子が、路上で怒鳴り合う場面でしょう。このくだりは観ていて鳥肌が立つぐらい迫力がありました。「セックスはコミュニケーションや。けど世の中にはセックスができずに苦しんどる男と女がようけおる。わしらは売春で、そうした人たちの魂を救ってるんや。」と父親の受け売りを話す金太郎に、「そうや、セックスしたくてもできひん人なんて、すぐここにおるやないの。他人の魂救う前に、どうして私ひとりの魂が救えへんの」と言い返す桜子。でも金太郎は、やっぱり桜子を抱くことができない。

 ふたりとも気持ちは同じなのに、モラルやタブーが間に立って、ふたりは最後の最後まで結ばれることはない。禁じられた恋の魔力によって、周りの人間たちが破滅して行く様子から、僕は『イングリッシュ・ペイシェント』を連想しました。この映画も本当は、主人公ふたりにずっと寄った演出にして、鴈龍太郎のエピソードなどは脇に追いやった方がよかったかもしれません。

 後半のクライマックスは、刑務所の面会室の中で、金太郎と桜子がガラス越しのセックスをする場面です。これは『ベント/墜ちた饗宴』より迫力のある名場面だ!


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