ジャンク・メール

1997/10/21 TCC試写室
ノルウェーでは評価の高かった作品だそうですが、これって面白いか?
エピソードの処理が中途半端に感じるけどなぁ……。by K. Hattori



 日々の仕事に飽き飽きしている郵便配達人が、ふとしたきっかけから犯罪に巻き込まれて行くスリラー映画。他人の郵便物を開封したり、配達途中に捨ててしまったりする不良勤務ぶりや、一目惚れした女性を守ろうとあれこれ動き回るところなどは、サブ監督の『ポストマン・ブルース』と同じです。シリアスとコメディの中間線を行き来するのも、ふたつの映画の共通点。『ジャンク・メール』は96年のノルウェー映画で、ふたつの映画に直接の関係があるとは思えない。不思議な一致です。

 1時間23分の短い映画ですが、あと20分足して、ここに描かれた事件の「その後」まで描いてほしかった。この映画に描かれているのは、大きな物語の序章に過ぎない。すべてのお膳立てが揃い、主人公たちが抜き差しならない状態に追いつめられたところから、彼らがどう行動するかがドラマだと思うのですが、この映画はそれ以前に幕を下ろしてしまう。手際がいいから尻切れとんぼな印象は与えないのですが、1本の映画としてはいささか物足りない。映画が終わった後に「お腹一杯です。ごちそうさま」と素直に言えない気分です。

 たいていの人間は、明確な目的や意志を持って日常を生きているわけではない。だから本当にリアルな人間を描こうとすれば、そこに描かれる人間像はふわふわと頼りなく、観る者に中途半端な印象を与えるかもしれない。でもそれだけで1時間半近い映画を押し通してしまうのは、観客にとって退屈なだけです。この映画の場合、強盗事件と意識不明の警備員、女を脅迫する謎の男、戸棚の中の大金の札束など、主人公たちに明確な目的意識を持たせるに足る材料がいくらでも転がっているのに、それがうまく生かされていない。ヒロインがどういう形で事件に関わっているのか、脅迫している男との関係はどんなものなのか、なぜ自殺しようとしたのかなど、説明をしないまま放置されている事柄が多すぎる。

 主人公の行動にも釈然としないところが幾つかある。一番釈然としないのは、彼のヒロインに対する気持ちがよくわからないこと。彼は彼女に恋しているのか。そうだとすれば、それはいつからか。彼は酒場でひっかけた女性を、ヒロインが留守の部屋に引っ張り込んでセックスしようとするような男ですが、女がふざけてヒロインのガウンを着ると、突然怒り出したりする。だったら最初から、女を部屋に入れなければいいじゃないか。

 細かなエピソードには面白い物もなくはないけど、それらが有機的につながりあって、ひとつの世界を構成するには至っていない。それらはすべて、脱線であり、寄り道であり、おまけです。1時間23分という短い時間の中で、これだけ脱線や寄り道をしていれば、物語の本筋が薄っぺらになってくるのも当然でしょう。

 監督・脚本のポール・シュレットアウネは、この作品が長編映画デビュー作。進みたい方向性は何となくわかるのですが、少なくともこのデビュー作でそれが成功しているとは思えない。すべてがやりかけのままです。


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