ラヴソング

1997/10/02 シネセゾン試写室
香港アカデミー賞9部門を独占した話題作だが僕の趣味じゃない。
物語は面白いんだけど、演出のタイミングが悪い。by K. Hattori



 『月夜の願い』『君さえいれば/金枝玉葉』のピーター・チャン監督が、マギー・チャンとレオン・ライ主演で描くラブストーリー。香港のアカデミー賞で、グランプリ・監督賞・主演女優賞・助演男優賞・脚本賞・撮影賞・美術指導賞・衣装デザイン賞・映画音楽賞の9部門を獲得した作品ということで、多いに期待したのですが……。ん〜、僕が観たところでは、単にセンチメンタルなメロドラマで、ちょっぴり期待はずれだった。もちろんこの映画が一定の水準をクリアしていることは間違いないしい、これに匹敵する作品がそうそう現われないこともわかるけど、演出のポイントがいちいち僕の感覚から外れていて、感動の波に乗り損ねた気分。『君さえいれば/金枝玉葉』は楽しい映画だったんだけどなぁ。

 物語の構成も各エピソードも、よくできていると思う。ただし、ここ一番「泣かせるぞ!」という点になると、観客である僕の気分が盛り上がる前に登場人物が盛り上がっていたり、音楽だけがむなしく盛り上がったりで、気持ちが少しひけてしまった。やってることがすごくあざとくてわざとらしい。観客を感動させることを狙うのは悪くないけど、それを露骨に観客に悟られてはいけないと思う。主人公たちが雨の埠頭で別れる場面など、ここで泣かさずにどこで泣かせるという場面なんですが、ぜんぜんノレない。感動が僕を置いてけぼりにして、ひとりで20メートルぐらい先を走っている感じです。

 大陸出身の若い男女が香港で出会い、互いに惹かれ合いながらも夢を実現するために別れ、また出会い、結ばれ、再び別れ、再度再会するまでを、10年という時の流れの中で描く物語。物語はものすごく面白くできている。1995年に死んだテレサ・テンが重要な役回りで登場するなど、映画の中の登場人物と日本の観客がひとつの時代を共有できるのも面白いと思います。

 香港で恋人ができながらも、それを「親友」と呼んで自分自身の気持ちさえごまかし、故郷の恋人にせっせとラブレターを出す主人公シウクワン。結婚した後、妻に「レイキウと付き合っていたのに、なぜ私と結婚したの?」と問われ、「それが僕の夢だった」と答える場面は胸にズシンときた。シウクワンもレイキウも、自分の夢を実現するために、自分たちにとって本当に大切なものが見えなくなってしまう。それに気がついたときは、互いに手の届かない距離まで離れた後なのです。

 主人公シウクワンのどこに魅力があるのかさっぱりわからなかったため、彼を愛するレイキウまで安っぽい女に見えてしまった。むしろレイキウを愛するやくざの親分パウがもうけ役。演じているエリック・ツァンはこの役で香港アカデミー賞助演男優賞を獲得してます。この人は『君さえいれば/金枝玉葉』でも印象的な役で登場してました。役者は副業で、本業は香港映画界の重鎮だそうです。副業で役者稼業といえば、ウォン・カーウァイ映画の名カメラマン、クリストファー・ドイルが、英会話学校教師の役で登場しているのも注目です。


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