ハッピーピープル

1997/09/17 朝日生命ホール(試写会)
原作コミックの面白さを一歩も踏み出そうとしない野心なき映画。
原作が面白いから、お話はそこそこ観られる。by K. Hattori



 ヤングジャンプに連載されていた釋英勝の同名人気コミックを、Vシネマやビデオで活躍中の鈴木浩介が完全映画化。短編集である原作から3つのエピソードをとった映画は、そこそこ芸達者な役者たちの芝居もあって、それなりに観れるモノには仕上がっている。今回は一般試写で観たのだが、周りの観客の反応はまずまずといったところ。観る人を非常に不愉快にさせる映画ですが、これは原作の持ち味だからしょうがない。観客の反応は概ね「面白かった」というところに落ち着いているように思えました。ただ、これは原作が面白いからじゃないのかなぁ。僕は原作も全部読んでますから、映画化する際には単なる「生身の役者を使った映像化」以上のものを求めたい。そうした意味でこの映画は、原作から一歩も外に出ていない分だけ、僕には物足りませんでした。

 原作通りにやるなら、何もわざわざお金をかけて映画にする必要はないし、原作の読者も映画を再び観る必要はない。できあがった映画を観ても、「もっとこうすれば面白いのになぁ……」と思う点が数々あって、とても気になりました。そもそも、絵作りが「映画」をまったく感じさせず、ビデオ作品を大画面に映写しているだけという雰囲気。映画を観慣れた観客には、絵作りがスカスカで観てられません。撮影は岩井俊二作品なども担当している篠田昇。さび付いたような独特の画調は、ワンシーンだけをスチルとして切り取れば岩井映画と変わらないのですが、カットとカットのつなぎがだらしなくて、映画にまったくリズムやテンポというものがない。カメラマンの撮った素材を、編集して作品にして行く過程がぜんぜん力不足なんです。こうして同じ素材で観てみると、岩井俊二の編集テンポの良さがよくわかります。

 映画冒頭の「いつからか僕は」は、映画全体のトーンを決定付けるプロローグ的なエピソードですが、これがまったくダメ。日常の小さなイライラを、相手をなぶり殺しにする妄想で晴らしている主人公が、最後に本当に人を殺してしまうという物語ですが、僕には彼がなぜそんなにイライラしているのかまったく理解できなかった。幸せなのは家庭の中だけ、という設定がそもそも嘘っぱちです。日常の些細なことであんなにイライラするということは、家の中でも同じように、妻や子どもを殺す妄想に浸っていなければおかしいよ。その肝心な点をぼかしているから、エピソード全体が嘘になる。原作通りにやるなら、例えば会社の女事務員をもっとブスで意地悪そうに演出するとか、信号待ちの男が明らかに無礼な奴だとか、何かひっかかりが欲しい。

 2番目の「意味もなくみんなで笑おうハッピーに!!」は、生徒からの暴力に耐えてきた教師が、最後に暴力で復讐を遂げる話。教師に対する暴力が黙認される理由が弱いけど、ま、こんなものかな……。最後の「ピアスをはずせ!!」は、病院の場面を舞台劇風の演出にして、最後にカメラを外に出すなど、工夫の余地はまだまだある。お話が面白いだけに、もったいない。


ホームページ
ホームページへ