イベント・ホライゾン

1997/09/02 UIP試写室
遭難した宇宙船を舞台にしたオカルト映画。
けっこうマジで恐いです。by K. Hattori



 SF映画の体裁になっていますが、実体はオカルト系ホラー映画です。謎の科学者を演じたサム・ニールは、『マウス・オブ・マッドネス』を思い出させる怪演。この人は出自が『オーメン3/最後の闘争』ですから、もともとオカルト系の人なんだよね。『ピアノ・レッスン』など文芸映画にも出るし、芸域の広い人ですな。この映画で彼と対決するローレンス・フィッシュバーンは、『ボーイズ’ン・ザ・フット』の父親役や『理由』の暴力警官役が印象的だった黒人俳優。(『ティナ』も勇名だけど、僕は観てないもんですから……。)僕は好きな役者なので期待したんですが、今回はいつもほどの個性の強さが感じられなかった。顔のでかい大男という印象があったんですが、なんだかちょっとしぼんだ感じ。少し痩せたのかな。少し心残りな結果です。ま、ここでフィッシュバーンが大活躍してしまうと、まったく別の映画になってしまいそうですけど……。

 CGを使った特撮映像がすごくきれいで、ちょっとびっくりしました。無重力空間に浮遊する漂流物を、ほとんど全部CGで描いている。まさにデジタル時代です。特撮マンのリチャード・ユーリッチは『2001年宇宙の旅』の頃から映画界で活躍している人らしいのですが、昔のように大掛かりなセットを回転させたり、ガラス板に浮遊物を張りつけて撮影したりしなくても、今はコンピュータの中でどんな映像でも作り出せるんですよね。

 監督は『モータル・コンバット』でもCGバリバリの特殊効果映像を見せてくれたポール・アンダーソン。特殊効果で観客をびっくりさせるコツをわきまえてます。巨大な宇宙ステーションから、カメラがどんどん引いて行く場面では目が回りそうになります。巨大な宇宙船が姿を現わす場面は、船のスケール感を上手く表現しています。特に映画の前半は目のくらむような特撮のオンパレードですから、特撮ファンはご注目を。

 中盤以降は宇宙船の内部を舞台にした幽霊譚になってますから、物語の細かな整合性なども吹き飛んでしまいます。ツボにはまったショック描写、SF風の道具立て、そして特撮という三位一体の構成で、観ているこちらはドキドキワクワク。宇宙船全体が邪悪な想念にとり憑かれて、内部にいる救助隊員たちをひとりずつ食い殺してゆく。そのお先棒を担いでいるのが、妻に先立たれた科学者サム・ニール。監督自身がこの映画を「宇宙の『シャイニング』だ」と言ってる通り、幽霊は出てくる、血糊は川となって押し寄せるという、まったくSF的な興奮からはかけ離れた描写が怒涛の如く観客に襲いかかります。狭い宇宙船の通路の中を、ぐるぐると逃げ回る様子は『エイリアン』も思い出させるなど、過去の面白い映画の要素がぎっしりと詰まったお買い得品です。

 ワームホールを作って宇宙旅行するアイデアは、『コンタクト』にも登場しています。『コンタクト』の発射基地と、イベント・ホライゾン号のコア部分のデザインが、どことなく似ているのは気のせいではあるまい。


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