シャ乱Qの
演歌の花道

1997/08/13 東宝第1試写室
新しい「クレージー映画」を作るつもりだったのかな……。
アイデアは悪くないけどギャグが少ない。by K. Hattori



 監督の滝田洋二郎が、人気ロックバンド・シャ乱Q主演で新しい「クレージー映画」を作ろうとして、ちょっと失敗してしまった映画。ノリや方向性としてはクレージー映画で間違いないんだから、それを信じてひたすら芝居を盛り上げていってほしかった。この内容なら、個々のエピソードではもっと無茶をやってもいいと思う。もう少しパンチの効いたエピソードがほしい。遠慮せずに、徹底的にバカバカしくしてもよかったと思う。ギャグが足りないのかなぁ。全体にこれの3倍ぐらいギャグを入れないと、1時間半が間延びしてしまうんだよね。

 ロック歌手が演歌歌手としてプロデビューするというアイデアは悪くない。突然現われた門外漢の歌手が、その道一筋の先輩歌手に意地悪されたり煙たがられたりするのも、設定としては無理がない。先輩歌手に扮した陣内孝則も面白かった。満員のホールの中で、持ち歌「男の人生」を熱唱する場面は最高です。ただし欲を言えば、この役にはド演歌系の俳優を持ってきた方がよかった。郷土色を前面に出して、土臭い土着のエネルギーで熱唱するタイプの歌手を配すると、ロック歌手の主人公と対象になって面白かったはず。

 クレージー映画なら、つんくの役を植木等、陣内の役をハナ肇が演じて対比させたんでしょうけどね。陣内はもともとロック歌手だから、持ち味がつんくとあまり変わらないのです。映画のタイトルは『演歌の花道』でも、演歌の歌手に見えない。主人公と同じ事務所に所属している先輩歌手、尾藤イサオに対しても同じことが言える。彼はロカビリー出身で、やっぱり演歌じゃないんだよな。

 劇中で使われている「男の人生」と「虹色橋」の2曲の演歌は、シャ乱Qのメンバーが作詞作曲したオリジナル。(尾藤が歌う「しんぼう峠」はどうなんだかチェックし忘れた。)僕は彼らの曲を最初から「ロックというより歌謡曲だな」と思ってましたから、演歌にもわりとなじみがいいのかもしれない。つんくの歌いっぷりもなかなか堂に入っている。一方ミスマッチの面白さを狙って、本当にミスマッチになってしまったのが尾藤イサオ。彼が歌う演歌は、どうも具合が悪いな。ノリが違うんだよね。最後にシャ乱Qの「いいわけ」を演歌風にアレンジしたものを熱唱しますが、これもアレンジが悪くて「いいわけ音頭」みたいに聞こえる。シャ乱Qの曲の中には、アレンジをオケに直して森進一あたりが歌えばそのまま演歌で通るものもあると思うんだけど……。なんにせよ、尾藤イサオは最後まで居心地が悪そうにしていた。最後は彼にロックを熱唱してほしかったんだけどなぁ。シャウトするイサオが観たかったのに〜。

 最後は予定調和的に「やっぱりロックだぜ!」みたいな終り方になりますが、僕は「おいおい、これで終わっちゃうのかよ」とちょっと物足りなかった。面白くなりそうな素材をばらまきながら、最後の最後まではじけるところのない映画でした。もったいないなぁ。もっとクレージー映画を勉強してね。


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