バウンスkoGALS

1997/08/11 イマジカ第1試写室
原田眞人がコギャルたちを主人公に描いた傑作青春映画。
ラストシーンには泣けた。拍手、拍手。by K. Hattori



 『KAMIKAZE TAXI』の原田眞人が、現代の女子高校生をテーマに撮り上げた新作映画。前作『栄光と狂気』はイマイチだったけど、今度の映画は『KAMIKAZE TAXI』のパワーいまだ健在という力作。『トラブルシューター』と同じか、それ以上の水準に仕上がっている。ブルセラや援助交際など、時代のキーワードになった女子高生を描く映画は最近いくつか見受けられますが、そうした風俗映画とは一線をかくすデキ。表面的な風俗描写から、徐々にキャラクターの内側や社会構造の裏側に物語を掘り下げて行く、いつもの原田流作劇術が徹底していて、観ていて非常にスリリングです。

 茶髪、ルーズソックス、携帯、テレクラ、伝言ダイヤル、デートクラブ、ブルセラショップ、援助交際、オヤジ狩り、女子高生ホステス、チーマー、素人AV、その他諸々。マスコミをにぎわせている女子高生周辺のアイテムが、カタログ的にずらりと勢揃いしている様子は見事ですが、ここまでならマスコミからの二次情報だけで作れる内容。面白いのは、こうした浮遊物をかきわけて、物語が生身の人間の側まで降りて行こうとする姿勢です。このあたりは原田眞人の独壇場。登場する人間のひとりひとりが皆、切れば赤い血の出る生身の人間に描かれていて素晴らしい存在感を見せます。この映画に登場する女子高生たちは、僕が街の中で見かける本物の女子高生たちより遥かに生々しい存在感で僕に迫ってくる。

 会話の面白さは、原田映画の魅力のひとつ。この映画では、佐藤仁美演ずるコギャルたちのリーダー格ジョンコと、役所広司演ずる団塊の世代のやくざ大島の会話が素晴らしかった。「援助交際のおかげで、売春で食ってる俺達は大損害なんだ。なぜ客はプロの女とセックスせずに、コギャルと食事して10万も払うんだ」と問う大島に、ジョンコは「大人に常識がないんです」と答える。「1万円出すからキスさせろと言われても断るけど、百万円ならOKするのが女子高生の常識でしょ。問題は『それなら100万出す』という大人がいること」と言うジュンコの口調は理路整然としているように見えるけれど、どこかがおかしいような気もする。おかしいのは世の中の風潮なのかもしれないけど……。

 この映画が感動的なのは、一見無軌道に見えるコギャルたちの行動の裏にある彼女たちなりのモラルやルールを浮き彫りにし、普遍的な友情の物語を再構築しているからだ。女子高生たちの風俗を切りとって、ただ単に「これが女子高生たちの実体だ!」などと誇らしげに見せない慎み深さには好感が持てる。

 金曜日の朝に始まった物語は、土曜日の朝に幕を閉じる。たった1日の物語だけれど、この1日は彼女たちにとって一生忘れられない1日になることでしょう。少女たちは前向きに成長して行く。少女たちが仲間を見送るラストシーンでは、観ているこちらまで思わず涙がこぼれたけど、これって大人の郷愁かな。現役女子高生たちは、この映画をどう観るか。そんなことにも興味がわく。


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