ザ・ターゲット

1997/08/08 東宝東和試写室
密かに進行中の大統領暗殺計画をチャーリー・シーンが暴く。
知的スリラーを肉体アクションに変える功罪。by K. Hattori



 チャーリー・シーン主演の「ホワイトハウス内陰謀物」。大統領やその側近たちがとてつもない陰謀をくわだてていたり、大統領が知らない場所で側近たちが陰謀をたくらんでいるというストーリーは、これまでにも多くの映画で語られてきた。この手の映画はすいぶん前からあるジャンルだとは思いますが、そのルーツはケネディ暗殺事件にあるのでしょう。集大成がオリバー・ストーンの『J.F.K.』であり、変わり種のコメディが『デーヴ』あたりかもしれない。

 この映画は「知らないのは大統領だけ」という側近の陰謀を描くタイプの映画。陰謀の存在に気付いた主人公が、殺し屋や警察に徹底的に追いつめられて行く過程が新しいけど、やっていることはいろんな映画の寄せ集めだったりします。寄せ集めのわりには細部のつめが甘くて、手に汗握るスリルを生み出せていないのはちょっと残念。もっとシビアに主人公を追い込んでほしかった。

 映画を観ていて気になった点はいくつもある。例えば殺し屋が街中で大っぴらに行動すれば目撃者も大勢いるはずなのに、なぜ問題にならないのだろうか。何がなんでも証拠を消そうとしている黒幕たちは、なぜ殺し屋をひとりしか用意しないんだろうか。黒幕の最終的な目的は何なのか。そこに至るシナリオはどうなっているのか。こうした細部が曖昧になっているので、物語は「政治的な謀略を阻止する」部分より、「主人公が追手から逃げる」サスペンスの方が大きくなってしまう。

 主人公と行動を共にする新聞記者も、何のために登場したんだかよくわからない。単に主人公の後を追い掛け回しているだけで、最後まで主人公と対等にはならないんだよね。これもすごく残念でした。もっともこうした弱点の数々は、演出に勢いがあるのであまり目立った傷になっていません。監督はジョージ・P・コスマトス。『ランボー/怒りの脱出』や『コブラ』『トームストーン』などを撮った監督です。アクション映画で物語のアラを乗り切るコツを心得ているんですね。上手い。

 映画の構成として、チャーリー・シーンが最初から動き出しているのは正解です。彼はあまり頭がよさそうに見えないので、彼が大統領のスピーチ原稿など書くシーンがあろうものなら、それがまったくの嘘に見えてしまうでしょう。この映画のシーンはわりといいですね。

 この映画を観ていて思ったんですが、日本で「首相やその側近が陰謀をたくらむ」という映画は作れるでしょうか。僕は作れないと思うし、そもそも、作っても面白くないと思う。アメリカでは、選挙で選ばれた大統領が民主主義の象徴になっている。大統領をないがしろにすることは民主主義をないがしろにすることだし、大統領を暗殺しようとするのは民主主義を殺そうとしていることだと受け止められているのでしょう。日本の首相は、日本の民主主義の象徴になっていないから、日本で同じような映画を作っても、アメリカ大統領のようなダイナミズムを生み出すことはできないと思います。


ホームページ
ホームページへ