チャンス!

1997/08/07 GAGA試写室
ウーピー・ゴールドバーグが男性社会に風穴を開ける。
秘書役ダイアン・ウィーストが好演。by K. Hattori



 実力主義と称されている世界でも、依然として実力以外の要素が幅を利かせていることが多い。ある時はそれが有力者とのコネであったり、学歴であったり、出身地や出身階層であったりする。この映画の主人公ローレルは、女性であるという「性別」によって、勤務している投資コンサルタント会社の中で不当に評価を貶められている。自分より実力で数段下の男性社員が順調に出世して行く中、自分だけは出世の道を閉ざされているという現実。自由と平等を旨とするアメリカ社会の中で、誰もその存在を認めようとしない「ガラスの天井」に激突して、ローレルははじめて社会の理不尽さを味わいます。

 主人公ローレル・エアーズを演じるのはウーピー・ゴールドバーグ。彼女は勤めていた会社を独立して、エアーズ社を旗揚げする。しかし、顧客は女ひとりの会社と取り引きをしようとしてくれない。顧客は全員「僕はいいんだけどパートナーが渋っている」という紋切り型の逃げ口上で、ローレルとの取り引きを避けようとする。男社会であるウォール街では、女性が自分の名前で商売することができないのです。ある有力な顧客のところに出かけた際、ローレルはとっさに「私には男性の共同経営者がいます。名前はロバート・カティです」と言ってしまう。取引先が男だと知ったとたん、顧客は手の裏返してニコニコ顔。ここからローレルの作り出した架空の投資顧問ロバート・カティが、ウォール街に一大旋風を巻き起こすことになります。

 八方ふさがりでにっちもさっちも行かなくなったローレルが、カティを創造することで突破口を切り開き、ウォール街で大活躍する数々のエピソードは痛快。一等地に豪華なオフィスを構え、出張や会議で常に不在のカティ氏の名代として、ローレルは八面六臂の大活躍。成功の階段を猛スピードで駆け抜けて行く様子は、見ていてもワクワクすること間違いなし。架空の人物がさも実際の人物のように投資筋に影響を与えはじめるという物語は非常に面白く、このあたりをもう少しエピソードで補強してもらうと百点満点だった。今のままでも十分に面白いんですが、終盤でやや物語がもたついてます。

 ウーピー・ゴールドバーグが、特殊メイクで実際のロバート・カティ氏に変装するくだりは面白い。でもこれによって、「架空の人格が現実社会に影響力を行使し、その影響力に主人公も左右される」という物語の背骨を弱くしてしまった。『ミセス・ダウト』的ドタバタに逃げず、最後までカティ氏が画面に登場しないまま終わった方が、映画としては面白い物になったと思います。

 主人公をウーピー・ゴールドバーグが演じていることで、本当は「女性差別」に加えて「黒人差別」の問題も描かなければ嘘になると思うのですが、後者について映画は完全に無視を決め込んでいる。ハリウッドでは現在あからさまな黒人差別を描くことがタブーになっているんでしょう。女性差別はエンターテインメントになっても、黒人差別はそうならない素材なんですね。


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