ラブ・アンド・ウォー

1997/08/04 GAGA試写室
文豪ヘミングウェイの青年時代と運命的な恋を描く伝記映画。
題材は面白いけど恋愛映画としては難あり。by K. Hattori



 アメリカのノーベル賞作家、アーネスト・ヘミングウェイの青年時代を描いた伝記映画。ヘミングウェイの恋人である看護婦アグネスを演じたのは、この夏『スピード2』でも大活躍するサンドラ・ブロック。ヘミングウェイには、これまた夏の『バットマン&ロビン』で活躍しているクリス・オドネルが扮している。監督は、やはり夏の大作映画『ロスト・ワールド』に出演しているリチャード・アッテンボロー。夏休み映画の主役たちが、大挙して押し寄せる、しっとりとした秋の映画です。

 アッテンボロー監督は最近伝記映画専門監督になりつつあって、87年の『遠い夜明け』、92年の『チャーリー』、94年の『永遠の愛に生きて』など、すべてが伝記映画。そういう意味では、彼にとって「伝記」は素材として手慣れたものなのでしょう。風景や衣装、風俗などを映画の中で再現して、時代背景をきちんと絵にする部分は安心して観ていられます。ただし、僕は今回の映画をすごく物足りなく感じた。主人公たちの「状況」は正確にわかりやすく描かれているのですが、その時の「気持ち」が伝わってこない。有名な作家の秘められたエピソードとしては興味深いけど、そこに感情移入して、独立した青春ドラマとして見るには底が浅い。

 脚本はそんなに悪くない仕上がりだと思う。ヘミングウェイのプライドの高さ、血気にはやりがちな性格、自信過剰なところなどが、うまく物語の中に盛り込まれている。ところが、こうした主人公の性格が芝居の中できちんと浮かび上がってこないから、ラストシーンで互いに愛し合いながらも、ヘミングウェイの自尊心が邪魔して一緒になれないという描写に、説得力がなくなってしまう。彼は自分自身に対して頑ななところがあり、それが彼自身を芸術家として高めて行く原動力になっている。しかしそうした性格は諸刃の剣。自分自身に対する厳しさと同等の厳しさを恋人にも求めた結果、彼はアグネスの裏切りがどうしても許せない。理性ではそれを許そうとしながら、心がそれを拒絶する。あるいは、心が許そうとしても、芸術家としての信念がそれを許さない。

 物語の序盤から中盤にかけて、ヘミングウェイの性格がもっと立体的に描かれていれば、彼が最終的になぜアグネスを拒絶してしまったのかが、もっと明確になってきたと思う。今のままでは、なぜ彼があそこまで頑なに彼女を拒絶したのか、その理由がわかりにくい。

 アグネスがヘミングウェイに対する自分の気持ちや彼の自分に対する気持ちを知りつつ、それでも他の男からの求婚を受けようとする気持ちにも納得が行かない。なぜ彼女はヘミングウェイを袖にしようとしたのか。

 恋愛映画に感動するためには、観客の側に「わかるわかる、その気持ち」という共感や、「がんばれ」という心情的な後押しが不可欠だと思う。ところがこの『ラブ・アンド・ウォー』には、そうした共感を呼ぶキーになる部分がほとんどない。役者も舞台装置もいいのに、なんとも味気ない芝居になってしまいました。


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