ハーモニー

1997/07/30 松竹第1試写室
精神病院で演じられるモーツァルトのオペラ「コシ・ファン・トゥッテ」。
クライマックスの舞台の場面はすごく楽しい。by K. Hattori



 試写室ですぐ隣に座っていたおじさんが、この映画を観ながら、さして面白いとも思えない場面でクスクスウヒウヒじつによく笑う。登場人物の一挙手一投足が全部面白いらしく、何が起こっても、どんな台詞でも、クスクスウヒウヒが止まらない。悲しい場面でもフンフン鼻を鳴らしていたので、ずいぶんと笑い上戸なおじさんだと思ったら、なんとハンケチで涙をぬぐってました。笑い上戸なんじゃなくて、感情の起伏が激しい人だったみたいです。僕はこのおじさんの反応が気になって、映画にはあまり集中できなかったのが残念です。

 1996年製作のオーストラリア映画。今年は大ヒットした『シャイン』を筆頭に、オーストラリア映画がずいぶん公開されます。この映画の原題は『COSI』。精神病院に入院する患者たちが、モーツァルトのオペラ「コシ・ファン・トゥッテ」を上演しようとする物語です。主人公はその舞台を演出する男。舞台の演出経験など持たず、生活のため一時の腰掛けで引き受けた仕事ですが、主人公は徐々にこの仕事にのめり込んで行く。もともとは舞台劇として製作された物語で、オリジナルの戯曲を書いたルイス・ノーラが映画用の脚本も担当しています。舞台劇の映画化作品というのは、とかく小さな範囲で物語が進行しがちなのですが、この映画はそうした狭苦しさを感じさせません。映画かに際しては、元の戯曲をかなり大幅にアレンジしているようです。

 モーツァルトの「コシ・ファン・トゥッテ」は、恋人の貞節を試そうとする男たちの物語です。映画ではオペラと同じように、主人公が自分の恋人の貞節について友人と賭けをすることになる。劇が完成に近づくに連れて、主人公と恋人との関係が怪しくなるという皮肉。日常が虚構の芝居めいた様相を見せはじめ、逆に舞台の中から真実が見えてくるという内容なのかもしれませんが、このあたりの対比はあまり明確になっていない。ここがもう少しうまく描けていると、主人公が芝居作りに熱中する様子にも一層の説得力が生まれたと思う。

 ひとつの舞台を作ることで、そこに集う人間が癒されて行く物語。同じような映画に、ライザ・ミネリ主演の『ステッピング・アウト』があったことを思い出した。まがりなりにも、ミネリの魅力で映画に一本筋を通した『ステッピング・アウト』に比べると、『ハーモニー』はちょっと中途半端かもしれない。芝居を始める前と後とで、登場人物がどう変わったのかという変化が明確になっていないのです。全体にとても散漫な印象が残りました。主人公の演出家は、この舞台を通して何を学んだのか。恋人との関係はどうなってしまうのか。患者たちのリーダー格、虚言癖のあるロイは舞台から何を見つけたのか。ジャンキーのジュリーは何を得たか。

 ジュリーが衣装について「カルメンの仮装だ」と言う場面、台詞では「カルメン・ミランダ」になってます。字幕もちゃんと訳してほしい。カルメンとカルメン・ミランダじゃ大違いです。


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