プロヴァンスの恋

1997/07/15 シネセゾン試写室
「フランスのブラッド・ピット」ことオリヴィエ・マルティネスに注目。
ジュリエット・ビノシュはミスキャストだけどね。by K. Hattori



 フランスの著名な作家ジャン・ジオノの小説「屋根の上の軽騎兵」を映画化した作品。ジオノはフレデリック・バックのアニメ『木を植えた男』の原作者でもある人。日本ではあまり知られていませんが、19世紀のイタリアの騎士アンジェロが活躍するジオノの連作小説はフランスではかなり有名らしく、過去にも何度か映画化の話があったとか。僕は原作を読んでいないので「小説の映画化作品」としての評価はできませんが、映画の構成はいかにも「小説の中の名場面集」といった風情です。

 エピソード同士がつながって大きなドラマになるのではなく、エピソードごとに完結してしまう感じがしました。延々クライマックスの連続で、構成上の緩急の変化があまり感じられないため、全体を通すと幾分大味な映画になっているようにも感じます。原作の読者が観ると、エピソードとエピソードの間を原作にある別のエピソードで埋めて行けるのかもしれませんが、映画だけで観るとちょっと間延びした感じです。幕切れも、1本の映画としてこれでいいのかどうか。

 これはフランス映画によくある「余韻を残す」というものではなく、単に物語が尻切れとんぼになっているだけだと思います。あるいは、アンジェロとポーリーンの物語がようやく始まったというところで、チョンと幕が下りてしまう感じです。テレビシリーズの第1回放映、長時間のスペシャル版みたいに見えなくもない。あるいは連作ドラマのパイロット版か。人物の説明や物語の背景だけを一通り並べて、映画が終ってしまいます。僕はこの映画の続編が観たいと思いました。

 オリヴィエ・マルティネス扮する騎士アンジェロは、少し固いところもありますが、なかなかの好人物に仕上がってます。「フランスのブラッド・ピット」などと言われているようですが、僕はブラピより将来性があるように感じます。役者としての懐の深さを感じるんです。一方、ヒロインのポーリーンを演じたジュリエット・ビノシュは、ややミスキャスト気味です。役柄から判断すると、もっと若い女優の方が面白いと思うんですが、興行的な判断としてオリヴィエ・マルティネスだけでは弱いという判断なのかもしれませんね。そう考えると警察署長役で大スター、ジェラール・ドパルデューがほんの少しだけ顔を出しているのもなんとなくわかる。客寄せの餌ですね。こうした点では、日本もアメリカもフランスも似たり寄ったりです。ただしこうした脇のキャスティングのせいで、主人公であるアンジェロ活躍の影が薄くなったのは事実です。

 この映画の見どころは、19世紀の南フランスの風景を丹念に再現した部分でしょう。一面の麦畑を、馬に乗ったアンジェロが駆け抜けて行く場面の美しさ。コレラの発生で死に覆われた町や村。その上を旋回するカラスの群れ。丘陵地帯を疾走する騎兵たち。原題にもなっている「屋根の上の軽騎兵」のイメージが他の場面に比べて弱いので、邦題はこんなもんでしょうね。


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