家族の気分

1997/07/04 シネセゾン試写室
原作が舞台劇ということで、映画の印象がやや狭苦しくなったのは残念。
『猫が行方不明』のセドリック・クラピッシュ監督最新作。by K. Hattori



 『猫が行方不明』のセドリック・クラピッシュ監督最新作。原作はアニエス・ジャウィとジャン=ピエール・バクリの書き下ろし戯曲で、上演された舞台も大ヒットだったという。この映画はその舞台版とほぼ同じ構成、同じ配役で作られているらしい。出来あがった映画はいかにも「もと舞台劇でした」という感じで、それが僕にはちょっと気になった。人物が自由にどこにでも移動して行く『猫が行方不明』に比べると、ちょっと狭苦しい印象を持ちます。監督はこの映画と『猫〜』を同時に撮っていたとのことですから、あえて両者に違った味付けをしたのかもしれません。この映画を観ると、クラピッシュ監督の持つ幅がよく見えてきます。

 舞台を限定して、そこに集う人々の生活や心のひだを浮き彫りにするという構成は、同じフランス映画の『パリのレストラン』に似ているようにも感じました。夕方からはじまった物語が深夜に終り、集まった人々が三々五々解散する様子も同じ。時折、登場人物たちの子供時代の風景が挿入されたりするのも同じだし、室内だけで進行していた物語が、途中で一度外に出るのも同じ。『パリのレストラン』が舞台劇に見えないのは、人物ごとのエピソードの重ね方が、きちんと映画的に処理されているからでしょう。『家族の気分』も映画的な脚色をすれば舞台臭は消えるのでしょうが、この映画ではあえてそうした処理をしていない。原作戯曲の持ち味を尊重して、ぎりぎり必要な手直しだけで映画にしたようです。

 舞台の出演者がそのまま映画でも同じ役で出演していることもあり、無駄なく練り上げられた芝居は見応えがあります。役者同士の息もぴったりと合っているし、それぞれが自分たちの役どころをしっかりとつかんでいる。描かれているのは家族の反目と和解という、よくあるものですが、肉親であるがゆえに必要以上に傷つけあったりへんに甘えたりする様子は、日本人にもよくわかると思う。こうした家族の風景というのは、万国共通なのですね。登場するのは、父譲りの小さなカフェを経営する長男、電器メーカー重役の次男、次男と同じ会社で働く妹、兄妹たちの母親、次男の嫁、カフェのバーテンの6人。直接兄妹たちと血のつながりのない次男の嫁ヨヨと、カフェのバーテン、ドニが、物語の推進役になります。

 ドニは頭のはげた冴えない中年男なんだけど、物語の進行にしたがって、どんどんかっこよく見えてくる。血のつながった家族であることに甘えきっている他の人物たちに比べて、ずっとバランスの取れた大人に見えます。カフェの従業員という弱い立場なので、家族からは八つ当たりされたり怒鳴られたりもしていますが、それをしなやかに受け流してしまう。言葉や態度の端々から、彼が登場人物の中でも一番のインテリであり、優しい心の持ち主であることがわかってくるしかけ。最後の退場場面では、非常にヒロイックな面も見せてます。男の値打ちは社会的な立場や外見じゃないということを、実感させてくれる一瞬でした。


ホームページ
ホームページへ