コーリャ愛のプラハ

1997/06/20 ル・シネマ1
主人公ロウカとコーリャの交流を観ている内に心がほんのりと温まる。
1997年アカデミー外国語映画賞受賞作。by K. Hattori



 今年のアカデミー賞で外国語映画賞を受賞した、チェコ・イギリス・フランス合作映画。舞台になっているのは民主化前のチェコスロバキアだし、監督もチェコの人、撮影もチェコで行なわれているし、登場する役者もチェコの人たちですから、実質的にはチェコの映画です。プロデューサーのエリック・アブラハムがイギリス人なので、各国の資本が入っているのでしょう。東欧の映画なので、もっと暗くてじめじめした人間ドラマなのかと思っていたら、予想に反してユーモラスでスマートな映画でした。監督のヤン・スビエラークは1965年生まれとまだ若く、この映画が長編第4作目だそうです。この映画にも描かれていましたが、チェコは1989年のビロード革命で民主化が実現しています。スビエラークが長編監督としてデビューしたのは91年ですから、彼は東欧の民主化後に登場してきた新しい世代の監督。彼の作品に重苦しい「東欧映画」のイメージがないのも当然かもしれません。ぜんぜん知らない監督だったんですが、日本では去年公開された『アキュムレーター1』が彼の作品だそうです。こんなことなら観ておけばよかった。

 貧しいチェロ奏者が金目当てで子持ちの若いロシア人女性と偽装結婚したところ、相手の女性はチェコ経由で西ドイツに亡命。残された5歳の少年コーリャを抱えて、50男が四苦八苦する物語です。妻が亡命したとあって、自分は秘密警察から目をつけられる、ロシア人のコーリャとは言葉が通じない、子供がいたのでは女友達と遊ぶこともままならない。主人公はどこかに子供を預けて厄介払いしたいと思っているのですが、意に添わない同居生活を続けている内に、二人の間には親子にも似た心の絆ができてくる。よくある話ですが、この映画は歴史の中で生きている人間の日常を、じつに巧みにすくいあげることに成功しています。脚本を書いたのは、主演も兼ねたズディニェク・スビエラーク。監督の父親です。

 スビエラーク演じるロウカという男の魅力が、この映画の面白さの半分を作っているといっていいでしょう。コーリャ役アンドレイ・ハリモンの可愛らしさも、スビエラークの芝居があってこそ生きてきます。コーリャを見つめるロウカの視線に観客が同化できるからこそ、遠い異国を舞台にしたこの物語が、観客にとって身近なものに感じられるのです。コーリャとロウカが一緒に映画を観るくだりは、この映画の中でもっとも幸福なエピソードでしょう。映画を観たいと駄々をこね、半べそをかいていたコーリャの表情が、映画を観はじめると見る見るうちに明るくなり、声を上げて笑いはじめる。この一瞬で、僕はコーリャのことが大好きになった。

 大好きな場面はたくさんあるけれど、それをいちいちあげてもきりがないのでやめる。ロウカとコーリャが別れる場面は、意外とあっさりしたものだった。ハリウッド映画なら、ここで一気に盛り上げて観客の涙を絞り取るところ。でも、この後にあるエピローグとのバランスから言えば、これはこれでちょうどよかったのかも。


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