スクリーム

1997/05/27 ヤクルトホール
(テアトルぴあ・試写会)
ホラー映画をパロディにして笑い、さらにそれを逆転させてホラーにした映画。
ホラー映画ファンが泣いて喜ぶ場面や台詞が目白押し。by K. Hattori



 ホラー映画がギャグになってしまったのは、ビデオの普及と関係があると思う。映画館の暗闇で恐怖たり得たものも、お茶の間のテレビでは作り物としての正体を明かしてしまう。ホラー映画はそこで描かれた恐怖を共有するものから、恐怖におののく主人公と殺人鬼の対決を、スポーツ中継のように観戦するものになってしまった。エスカレートした恐怖描写は消費しつくされ、パロディとしての笑いへと変質している。こんな時代に、あえてホラー映画を作るからには、こうした観客の変化を逆手に取るしかない。おそらく『スクリーム』の作り手たちはそう考えたのだろう。

 この映画は数多くのホラー映画やサスペンス映画を引用しながら、物語を先へ先へと進めて行く。いきなり映画クイズから物語が始まるんだから、映画好きにはたまらないぞ。映画のレイティングを引き合いに出しながら、男の子がガールフレンドを口説く場面なども洒落ていた。「俺たちは、X指定かR指定映画のように愛し合ってたじゃないか。それが今ではファミリー向け映画になってしまった」と言う少年に、「PG-13の仲というのもあるわよ」と答える少女には笑った。

 ホラー映画マニアの少年が、友人たちの前で「ホラー映画で殺人鬼から生き延びる秘訣」を披露するのも面白い。曰く「セックスは厳禁。処女だけが生き残れる」「アルコールと麻薬も禁止」「『すぐ戻る』と言ってひとりで行動したら死ぬ」など。別の場面では、「外に逃げればいいのに二階に逃げるなんて馬鹿馬鹿しい」という台詞もあったりして、その手の映画が好きな人は「うんうん、そうなんだよねぇ」と大喜びすること請け合いです。僕はあまりその手の映画に詳しくないのですが、ホラーサバイバル三原則や、次々登場するホラー映画のタイトルには大喜びしてしまいました。

 この映画は、ホラー映画をパロディにして笑う風潮を全面的に肯定した上で、さらにそれを逆転させて恐怖にするという荒業を行っている。これが必ずしも成功しているとは思えないし、犯人の正体やトリックなどにも腑に落ちない部分がないわけではない。だがここで描かれている「僕たちホラー映画についてこんなに知ってます」「僕たちホラー映画が大好きなんです」というメッセージには大いに共感してしまうのです。この映画ではホラー映画のありとあらゆるパターンを知りつくした上で、ある時はそれを引用し、ある時はその裏をかき、観る者を存分に楽しませようという仕掛けがあちこちに見られる。このサービス精神には参りました。

 ホラー映画としては、はっきり言ってあまり恐くないと思う。冒頭のドリュー・バリモアが殺される場面がよくできている程度で、終盤は殺人の質(?)より殺す人数で勝負みたいになってしまうのも、独立した1本の映画としては安直かもしれない。でも僕はそれをすべて承知の上で、この映画が大好きになった。怖さよりも、作り手のホラー映画に対する愛着と愛情に感動したのだ。


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