天国の約束

1997/05/15 シネマ・カリテ2
アル・パチーノがなんでこんなつまらない映画に出ているのかわからん。
人工甘味料的な甘さだけが後味に残り吐き気がする。by K. Hattori



 気が抜けてぬるくなったサイダーみたいな味の映画。ただベタベタと甘いだけで、何の刺激もないし美味いとも感じない。世界恐慌最中の1933年に、映画が観たくて観たくてしょうがない少年と、アル・パチーノ扮する祖父の物語。他にもいろんなエピソードが綴られているんですけど、エピソードがぶつ切りでぜんぜん駄目ですね。個々のエピソードに力があるわけでもないし……。アル・パチーノという大スターが出演していながら、ずいぶんと小規模な公開なのを怪訝に思っていたのですが、なるほどこういう理由だったのね。とにかくつまらん。

 話自体が悪いわけではないと思う。少年が過ごした夏休みの1日を抜き出し、朝目覚めてから深夜までを追って行くというアイディア。死ぬとき形見に25セントやると言う祖父。結婚式と葬式が教会で鉢合わせする話。映画間の入場料25セントを稼ぐため、にわかアルバイトに精出す少年。食料品店で目撃した盗み。医者と自殺する妻の話。祖父の懺悔と贖罪の話。どれも話としては面白いのだが、僕の胸に響いては来なかった。例えば、メアリー・エリザベス・マストラントニオが演じる少年の母親が、「どんなに神様にお願いしても、父さんの夢が見られない」と語るシーンなど、本来は泣かせどころだと思うんです。でも、これは泣けないでしょう。

 この話は、1日の間に本当にいろいろなことがあって、それを通じて少年が成長する物語ですよね。でも映画を観ていても、少年が朝から夜にかけてどう変化したのか、その成長ぶりがまったく見えてこない。映画の終盤、教会の中で少年は妻を亡くした医者に出会います。この時少年が医者を見る目は、その日の昼間に医者を見た目つきとは明らかに変化していなければならない。でも少年はただぼんやりと、医者を見送るだけなのです。

 物語の推進役になるのは、少年の映画館に恋焦がれる気持ちでしょう。25セントを血眼になって稼ごうとするのも、少年が映画館に入りたいからこそです。ところが僕は、少年がなぜそんなに映画館にあこがれるのかがわからなかった。そもそも少年は「映画を観たい」のか「映画館に行きたい」のか、どちらなんでしょうね。映画のタイトル部分では、クラシック映画から多くの場面を引用していたから、最初は「映画が好き」なのかとも思ったんですが、別にそういう物語じゃないね。そもそも、僕はあのラ・パロマという映画館で、どんな映画が上映されているのかずっと気にしてみていたんですが、看板などにも演目の説明がなかった。へんな小屋だ。

 たまたまシネマ・カリテで上映されたプリントが悪かったのかもしれないけど、シーンごとに画面の色合いがコロコロ変わるのが気になる。1日の話なんだから、朝と昼と夕方と夜とでは、意識して光線や色彩を変えてくれないと困る。唖然ととしたのは、少年が路地に入るまでは画面がオレンジ系なのに、路地から飛び出したときはノーマルの色調になっていた部分。僕はまた、別の時間の別の場面に話が飛んだのかと思ってしまいました。


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