星空のバイオリン

1997/05/04 有楽町朝日ホール
(日映協フィルムフェスティバル'97)
バイオリン作りに情熱を燃やす小沢僖久二さんの半生を映画化。
この映画との出会いは思わぬ収穫だった。by K. Hattori



 普段は滅多に見る機会がない独立プロ製作のアニメ映画だが、今回「日映協フィルムフェスティバル」でこの映画に出会えたのは、思わぬ拾い物だった。戦前から現在までバイオリン作りに情熱を燃やす、小沢僖久二さんの半生を映画化した作品。木工好きの小学生がバイオリンのの魅力にとりつかれ、日本のストラディバリを目指す姿を生き生きと描いている。物語は昭和初期からはじまり、戦争と愛する女性との別離から一時はバイオリン作りを断念した主人公が、再び情熱的にバイオリン作りに打ち込むまでを丹念に追う。僕としては終戦後から現代までの話も観てみたい気がしたが、そこまでやると大河ドラマになってしまうから、このあたりで切り上げたのはちょうどいいのかもしれない。

 絵の質としては大資本の宮崎アニメなどに及ぶべくもないのだが、安っぽい絵とはいえ、カットとカットのつなぎや構図がちゃんと映画になっている。これがアニメなのはもったいないと思うぐらい、画面に心地よいテンポとリズムが満ちているのには感心した。オープニングで観客の心を一気につかむところなどは、日本映画としてもかなり高い水準に仕上がっているのではなかろうか。しかしこれがそのまま劇映画になるかというとさにあらずで、出征から戦地での体験談、帰郷までのエピソードの運びには省略や飛躍がかなりあり、これをアニメ以外で行うと映画が破綻してしまっただろう。あくまでもこれは子供向きのアニメーション映画なのだ。

 もともとが実話とはいえ、かなり映画用に脚色しているはず。バイオリンとの出会いや、数々の創意工夫、数え切れないほどの挫折、それに負けない粘り強さなど、エピソードがいちいちツボにはまっている。人生のパートナーとなる女性との出会い、淡い恋、そして別れ……。小屋の外に積み上げた丸太に主人公が励まされるところなど、パターン通りの描写なんだけどやっぱりホロリとくるんだよね。この「パターン通りにホロリとさせる」ってのは簡単なようでじつに難しいのです。この映画はどこもかしこも紋切り型の泣かせどころを持っているのですが、そこでいちいち感動させられるんだから、作り手の技量はかなり高いと考えねばならない。

 軍隊時代のエピソードが、かなり長めに取ってあるのが印象的だった。バイオリン製作から遠ざかっていたこの時期が、主人公のバイオリン作りに対する情熱を燃え上がらせる。幼い中国人姉妹との交流、ロシア人バイオリン教師との友情など、戦争というにはあまりにものどかな風景を持ち出している。これは「日本人加害者論者」にはいささか不愉快な場面。だがこうした場面があるからこそ、その後の地獄のような南方での戦闘を強く印象づけられる。輸送船が沈められ、戦友がゆっくりと波間に飲まれて行く場面には泣けた!

 じつは僕の祖父の弟も、戦争中に船が沈んで死んでいる。真っ暗な夜の海を漂いながら、戦友の呼びかけに返事をしたらしい。そんなことをつい思い出した。


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